性別とか


 性別という括りが、本当に煩わしくて仕方のない瞬間がある。別に社会全般からそういった分類を排除したいだとか、そんなことは全く思っておらず、なんていうか、社会としての構造的な部分に性差が絡んでくるのはもうどうしようもない話で、当たり前だけど。たとえば日本中の銭湯がある日を境にすべて混浴になったとして、そんなのは普通に嫌だし。だからまあ、そういうことを言いたいわけではないのだけれど。思うのは、よりもっとミクロな関係においてのことなんだよな。たとえばとても仲の良い相手がいたとして、「〇〇(君/さん)のこと、自分は好きだけどね」と言ったとして。全く同じ言葉を全く同じ抑揚で全く同じ場面に口にしたとして、そうであっても、指名した相手が同性なのか異性なのかで、言葉の意味合いが勝手に変異してしまうような気がするっていうか。いや。気がするじゃなくて、実際そうだろと思っていて。自分にそんなつもりがなくたって相手に誤解させるかもしれないし、あるいは自分と相手の両方にそのつもりがなくとも聞きつけた第三者が誤解するかもしれないし。そういうの。そういう配慮を思うたびに「性別とかいうの、邪魔だな~~」ってなる。なんていうか、好きな人には好きって言いたいんだよな、普通に。人として「この人のこと好きだな~」と思う相手なんて本当にたくさんいるし、そういう気持ちは(何度も繰り返し交わす必要はないけれど、ただ)一度くらいちゃんと伝えておきたいって気持ちがあって。あるのに。あるのにな~って。社会の構造に性別が絡むのは仕方がない、それはそう。でもそういう、社会的な営みから切り離された夜くらいもっと自由になれたらいいのになって、そう思わなくもないんよな~って話。……ところで「それはお前の自意識の問題では?」という指摘が当然あるはずで、……はい。いや~、自意識だよな。自意識なんですよね、結局、真に破壊すべきものがあるとすればそれは。

 

 たぶんちょうど一年くらい前からだと思うけれど、それからずっと疑問に思っていたことがあって。いや、未解決のまま積み上げられている疑問なんてそれこそ無数にあるのだけれど、そのうちの一つを外へ出す機会が最近にあり。誰かに話してしまった以上は自分の胸だけに留めておく必要もないなとなり、だからここに書いてみるのだけれど。いや、ずっと疑問に思っていたこととして。男性であれ女性であれ、大してよく知らない異性と二人きりで人通りの少ない夜道を歩くのって普通に怖くない? 怖くないのかな。怖くない……なんてことある? 本当?(ところで本当に怖くない人は普通にいるらしく、マジで人に依りそう) これもまた、だから性別という属性が絡んでくるけれど、いや、同性同士なら別に警戒も何もないなって感じで。まあ、女性二人で人通りの少ない夜道を歩くのは普通に危ないだろってツッコミがあるけれど、それは一先ず置いておくとして……。少なくとも、隣を歩く人間に払う警戒心はそれほど持ち合わせていなくても構わないと思う。ところで。ところで、なんだよな、だから。非対称性があるよなと思う。具体的には、男性視点と女性視点とでは話が変わると思っていて。男性的な目線で言えば、異性に襲われたところで正直に言えば(相手がヤバい武器を所持していたり、あるいは不意をつかれたりしない限り)力で勝てそうな気がするし、というか(足を怪我するなどしていない限り)普通に走って逃げられそうな気がする。だから、そういう意味で過剰に警戒する必要はないのかなと思うのだけれど(ところで、強固な敵意を以てして用意周到を徹底されたら普通にやられると思う)、一方で女性の側は一般にそうではないよなという気持ちがあり。馬鹿にしているとかではなく、本当にそんなんじゃなくて、これは生物学的にどうしようもないこととして。……いや、だから怖くない? 自分がその立場だったら……、多分だけどめちゃくちゃ怖い。めちゃくちゃってことはないかもしれないけど、でも警戒はすると思う、かなり。って自分なら思うんだけど、でも気にしすぎなのかな。みたいなことを、だからちょうど一年くらい前に考える機会があり、とはいえ、それを本人に直接訊ねるのは流石に自意識過剰が過ぎてて気持ち悪いなと思ったのでやめた。世の中、そんなに良い人ばかりじゃないのにな~と思いつつ、思うだけに留めつつ(自分の周りにいるのは良い人ばかりだけど)。なんていうか、思うんよな。良い人のふりをしてるだけかもしれないじゃんって。他人の本性がどこにあるのかなんて外からじゃ分かりっこないんだし、なんなら自分自身、常に疑っている。本性の在処なんて自分でも分かんないし。だからつまりは、加害可能性の話でもある。いつそっち側の人間になるかなんて分かんないしな~と思うから、だからこういうことを考えたりもする。……、あるいは。あるいは自分なら、信用できない他人と二人きりで会うときには個室を避け、比較的見晴らしがよくて、それでいて複数の脱出経路がある場所を選んだりとか。まあ仮に襲われても順当に逃げられるかなって想像したりとか。なんか、自分はそういうことを平気でする人間だからって、そういうのも関係あるかもしれない。でも、これはこれで人のことを信じていなさすぎかな。