図書館、灯台

 

 自分のことをある程度知ってくれている人からすると、何を今更、という話かもしれないけれど。という前置きから始まる、あまりにも今更すぎる話として、地位とか名声とか、いわゆる出世欲? みたいなのが全然ない。全然ないというのは、なんだろ、将来的にそうなりたくないみたいな、そういう話ではなくて。自分の未来にそれがないかもしれない、と考えたとして、そうであってもある種の不安感に襲われるようなことがほとんどない、というのが正しいかもしれない。そりゃまあ、地位とか名声とか、あればあるだけいいのかもしれないけれど、いやでも、別になくてもいいかな……っていう。お金は……、生きていく上でどうしたって必要だから、それについては一定の不安が残るけれど。だからって、億万長者になりたいわけじゃないしな。と考えを進めてみると、自分が本当にやりたいことって何なんだろう、という、これもまた今更すぎる問いに対して向き合うための、その取っ掛かりくらいにはなるのかな、と思う。いや別に、それをいままでやってこなかったってわけじゃなくて、というか多分誰だってそういうのを無意識的にやっていて。ただ、明確に(言葉で)意識したことはそんなになかったかも、という話。とまあ考えてみると、家庭とかも、なんていうか、別にあれだなってことに気づく。どうでもいいというわけではないけれど、でも、自分の未来にそれがないから何なんだって気持ちはかなりあるな……みたいな。全然ないっていうのは、だから無関心の一種ではあるのだけれど、ところで無関心の一種でしかなくて。論争の種になりがちだけどさ、その、関心と無関心とを対比させるときって。要するに、関心と無関心とのいったいどの部分を対比させているのかという話ね。関心って、まあ、大きく分けて二つの要素があると思っていて、具体的には高校数学で習うベクトルなんだよな(ところで、現行過程ではベクトルは数Cに飛ばされたね)。向きと絶対値。向きを対比させると、いわゆる好きと嫌いとの対比になって。絶対値を対比させると、いわゆる関心と無関心との対比になるんだよね。今回は後者。だから、冒頭に書いたように、将来的にそうなりたくないとかいう話ではなく、その有無が自身の精神にそれほど影響を及ぼさないという話で、そういう意味で無関心ではある。ところでまあそもそもの話として、自分自身、未来の出来事に対して無頓着がちという傾向があるなとは思っていて。良くも悪くも。極度に悲観的になったりはしないし、一方で過度な楽観に根拠があるわけでもない。ざっくり言ってしまうなら、未来に期待なんかしていないというだけの話なのかもしれないな。これまた、良くも悪くも。

 

 じゃあ、自分にとって大切なことって何だろうなと考えてみて。つまりは、自分の未来にこれが欠けていたら……と考えると不安で仕方のないものって何だろうなと考えてみて。その一点を突き詰めると、最終的には、図書館になりたいんだよな、という結論へどうしたって行きついてしまう。図書館になりたい。意味は通らないけれど、間違ってもいない。音楽はまあ……、別に続けてなくてもいいや。いや、続けていてほしくはあるけどね、未来の自分に勝手なことを願うなら。ところで、なにか一つだけしか選べない状況にあるとして、当然のようにぎりぎりまで迷って、そして最後には道端に置いていくような、自分にとってはそういうものであってもいいとは思う。よくないんだけどね、全然。よくないけど、でも、そういう選択もあるのかなと思いはする。ところで、ところでなんだよな。ところで、図書館になりたいという欲求は捨てられないかも。図書館になりたい。より嚙み砕いて言えば、自分以外の一切を記録する場所でありたいんだよな。場所であることは一つのポイントで、カメラとかパソコンとか、そういった装置めいたものになりたいわけではなく。なんていうんだろうな。個々人が所有するような類じゃなくて、もっと大きな、万人にとって開かれている場所になりたいというか。それでいて、様々な記憶を保有するような。それってつまり図書館だよな~っていう。博物館とかはちょっと違う。あれは、既に潰えてしまった歴史を保存する場所だから。そうじゃなくて、いまこの瞬間を生きている人だったり物だったり景色だったり、そういうのを記憶していたいんだよな、たぶん。それが自分の未来に欠けているとしたら、……まあ、嫌だな~って思うかな。色んなものを記憶したいとは言ったけれど、別に、ずっと近くにいたいわけじゃないんだよな。比喩として図書館を選んでいることからもわかると思うけれど。週一で飲みに行きたいとか、そういう話では全くなくて。というか、別に全然会えなくたってそれはそれでよくて。なんていうか、そういった部分までを含めて、だから全部を記憶していたいっていう。その、もう全然会わなくなっちゃった人のこととかを忘れたくないっていうのは、まず間違いなくあるし。それは、自分にとっての図書館の一側面。自分だけが覚えているのでもよくて。約束は誰かと作るものらしいけれど、でもまあ、片方だけが持っていたっていいじゃんか、それはそれで。だから、その、なんていうんだろうね。言葉にしてみれば別にそんなつもりもないんじゃないと思いはするけれど、どこかの誰かが約束を忘れたときに、その存在を思い出すことのできるような場所でありたい、が一番近しいのかもな。そういう場所でありたいし、そういう人間でありたいし。それが、だから、図書館になりたいって欲求の本性かもしれない。とまあ、ここまで書いてみれば、これまでの自分がだらーっと書き続けてきた歌詞と照らし合わせてみて。……まあ、ずっと同じこと言ってんな~って気持ちにもなる。いつからなんだろうね、こういう風に考えるようになったの。間違いなく、大学入学以降のことだとは思うのだけれど。でもやっぱり、そういう人間でありたいな、少なくとも自分自身は。色んな人とかものとか景色とか、そういうのを記憶しておいて。それで、どこかの誰かがそれを失くしてしまったら、その在処を伝えてあげられるような、そういうものになりたい。なりたいわ。というか、だとすれば図書館じゃなくて灯台でもいいのかも、とは思った、いま。真っ先に思いついたのが前者だったというだけで、自分の中では、どちらも全く同じものの象徴ではあるわけだから。