〇 V アフター 今年一良かったものの一つ。所属している作曲サークルで週2回ある例会の後に催されていた企画ですが、各人が持ち寄った GOOD MUSIC を駄弁りながら聴くという、言ってしまえばそれだけのものでした(代表はお疲れ様です、本当に)。なんか、毎回二、三時間ほど行われていて、音楽的な話題が飛び交うこともあればそれでないこともありという感じでしたが、これが本当に有意義な時間で、むしろ「どうして今までなかったんだ?」と思ってしまうくらいに。会員たちの好みの一端を知ることができるということもあるのですが、それ以上に「いや、自分これ好きなんだが?!」みたいな音楽に期せずして出会うことができるというのが個人的には大きくて、Spotify のお気に入りの曲リストに入っているのは、さっきの Recommend とこの V アフターで知った曲がほとんどというくらいです。今年一年で確実に好きな音楽の幅が広がったな~という感覚があって、それまでも別に好きじゃなかったというわけではなく、単に知らなかっただけなんですが。というより、会員たちの dig 具合が本当に凄まじくて、「みんな、めっちゃ音楽聴いてるやん……」と戦々恐々とするばかりの 2020 年でした。いや、本当に。その恩恵に自分は授かりまくっている身なので、感謝の念しかありません。
正確には『(2020 Band ver.)』という注意書きがつきますが、それはさておき。月吉 170 号収録で、自分が四回生の九月に提出した曲です(原曲は三回生の一一月に提出)。自分はこの曲(原曲のほう)を結構気に入っていたという裏設定があり、技術力などの面から当時は叶わなかったバンドサウンドをいよいよやってみようと思い立ち、九月ライブとは何の関係もなしに制作されたアレンジバージョンです。……という話は以前に書いた気がします。編曲で意識した点といえば「実際にバンドでやったら絶対に楽しくなるような曲にしよう!」というのがあります。2サビ終わりから落ちてもう一度サビへ戻るまでの流れなんかは特にそうですね。ギターも、ベースも、ドラムスも、キーボードも、全員が楽しく演奏できるような、あるいはそういう光景が思い浮かぶような、そんな感じの曲に仕上げようというのは相当強く意識していました(最後サビ前のキーボードが超お気に入り)。
歌詞について。この曲はそもそも、三回生当時の自分が誘っていただいたバンド企画『Catch the Youth』を受けて作られたものでした。その企画のために書いたというわけではなくて、その企画が(というか大人数で音楽をするという行為、つまりバンドが)あまりにも楽しかったから、その感動を忘れたくないと思って作ったものです。だから、なんていうか、有体に言えば、歌詞の内容はもう全部それにまつわることでしかないっていうか、そんな風には見えないとしても、自分はそういうつもりで書いていました。『十月の教室の隅っこで』が何故『十月』なのかといえば、それはバンド企画をやったのが九月末のことだったからですし、『雨の匂いに暗がりは沈む』の『雨』は何なのかといえば、この歌詞を書き始めた当日に雨が降っていたというだけの話で。『水影に残響音』の『水影』は水溜まりのことですけれど、実は『御影(通り)』、つまり自分が通学のために歩いている道のことを指していたりもしていて。『そっと口ずさんだ この唄が』は、出来上がったばかりでまだ歌詞のないフレーズを、小さく口ずさみながら歌詞を考えていたということ。二番 A メロの『失った青色を取り戻せ』は『Catch the Youth』の標語をちょっと変えてみただけ。『なんて馬鹿みたいな合言葉』と思っていたのは本当のこと。『でも だからこそ 好きになれたんだ』も本当のこと。『跨いだ平行線』は横断歩道、『一台分の距離』は自転車。練習のためのスタジオに徒歩でやってきていたのが自分だけで、自分と同じ方角へ帰る残りの人たちはみんな自転車に乗ってきていたから。『気にしないよ』は、「先に帰ってくれていい」と言った自分に対して返してくれた言葉。サビで唄われる『七つ星』は、あの企画に集まったのが自分を含めて七人だったから。なんていうか、そういう全部を忘れたくないなって思って、じゃあ全部を唄にしちゃえばいいんじゃないと思って、その結果として出来上がったのがこの曲です。
何故そのような話をしたのかというと、それは今日の帰り道のことなんですが、いつの間にか考え方が逆転しているな、ということに気がついたというのがあって。それがどういうことかと言うと、「どうして生きていくのかな」じゃなくて「だから生きていくのかな」という方向に思考がシフトしていたという意味で。いつ頃からそうなっていたのかはいまとなっては定かではありませんけれど、でも考えてみれば確かに、「どうして」なんて自問を繰り返す夜はとうの昔に来なくなりましたし、それよりはむしろ「だから」と感じる機会のほうがずっと多くなってきていたような気がします。所属サークルのライブの直後とか、自分の作品が認めてもらえたときとか、もっと身近なところでいえば夕暮れの空を見上げたときとか。たまたま端末を家に放置したまま外出したせいで写真が撮れなかったんですが、今日の夕焼け空はとても綺麗な色をしていて、そういうものに出会ったときに「だから生きていくのかな」って考えがどこからともなく浮かんできて、あの頃とはすっかり逆転しているなって。『離れていても空は繋がってる』なんてありがちなフレーズですけれど、それはどうしようもないくらいに嘘まみれの綺麗事であると同時に、やっぱり間違ってもいないんじゃないかと思う自分がいて。なんてこともない日の帰り道に空を見上げて、その向こう側に遠くの誰かを思い出すことができるなら、自分にとってそれはとても幸せなことで。その一瞬は生きる理由たり得るのかも、と思ったり思わなかったりした帰り道でした。This is 日記らしい日記(本当に?)。
最初に扱うのはこの進行です。音楽的な用語でいえば I,VI はトニック、IV はサブドミナント、V はドミナントですが、用語自体はどうでもよく、緊張の度合いが(長調なら)I<VIm<IV<V の順に大きくなるという感じの理解をもっていればとりあえずは十分だと思います。I – IV – V – VIm なら『強い緩和』→『弱い緊張』→『強い緊張』→『弱い緩和』の順に展開が進むという感じで、一小節単位で切り替えるなら三小節目にアクセントが入るような作りになります。またループ頭が I による『強い緩和』から始まるので、穏やかな曲調を目指すときは向いてますね。
『staple stable / 戦場ヶ原ひたぎ』はサビ冒頭の進行が、ちょうどいま話題にしている I – IV – V – VIm ですが、上で言っていたような緊張感の遷移が何となく分かってもらえると思います。I と V の上でソの音を叩くので力強さを伴ったサビになっています。
『逆さまのLady / 三月のパンタシア』は A メロ(冒頭)前半の進行が I – IV – V – VIm です。メロが M6 Shell と M2 Shell(シェル。Soundquest 参照)を交互に叩いて動くというあまり馴染みのないことをやっているので、上で言ったような緊張感の遷移はあまり感じないかもしれません。
以降、この I – IV – V – VIm を色々と組み替えることで、基本的なものから応用編まで、様々な進行を作っていくことを考えます。
まずは I が I/III と転回形になったバージョンです。I/III は I であることには変わりないので相変わらずの安定感を持ちますが、I のそれに比べると若干劣ります。少し踏み込んだ内容に触れると、一般にはベースがどこを鳴らすかによって上に乗っているメロや和音の性質が変化します(『 I という和音の上にある』という属性と『ミというベースの上にある』という属性が融合するイメージ)(ハーモナイズ。Soundquest 参照)。なのでベースラインがどこにあるのかはメロディラインにとっても重要な検討材料です。
また今回の場合、ルートがミ→ファ→ソ→ラと順次進行で上昇するので、上で言った安定感の欠落も相まって『徐々に始まっていく感じ』がするような気がします(個人的に)(勿論、編曲次第ですけれど)。物語の幕開けのような、イントロや A メロなんかに特に向いている進行のような気がしています(そうでないといけないというわけではない)(下に A メロで用いられている例しか挙がっていないのは、単に自分の捜索力不足という説があります)(追記: B メロでの使用例も普通にありました)。
『アカシア / BUMP OF CHICKEN』は A メロ冒頭が I/III – IV – V – VIm です。「これから何かが始まりそう!」という期待感がありますよね。
『good friends / BUMP OF CHICKEN』は A メロが IIIm7 – IVadd9 – V – VIm7 です。I/III のときに比べて、少し沈んだような雰囲気になっていますね。
〇 Iadd9/III – IV69 – Vsus4 – VIm7(11)
ついでにこれもやってしまいましょう。変わった点が多々ありますが、基にあるのは上で紹介した I/III – IV – V – VIm です。ひとつひとつ見ていきます。まず Iadd9/III は何かといえば、I/III にレ(9th)の音が追加されています。次に IV6 ですが、これはレ(6th)の音が追加されています。Vsus4 は構成音からシが消えて、代わりにドが追加されています。最後に VIm7(11) はソ(7th)とレ(11th)が追加されています。
つまり、各和音の構成音はこうなっています。
Iadd9/III:ド、レ、ミ、ソ
IV69:ド、レ、ファ、ソ、ラ
Vsus4:ド、レ、ソ
VIm7(11):ド、レ、ミ、ソ、ラ
こう表せば一目瞭然で、各和音の構成音には『ド、レ、ソ』の三つが常に含まれていることが分かります。すると和音進行としては共通音を常に三つ持って進むことになり、通常こういった場合には平坦な印象(場面変化がない印象)の展開になります。しかもド、レ、ソはいずれも傾性の低い音(傾性については Soundquest 参照)なので、結果として、この形で使われる I/III – IV – V – VIm は『落ち着いた感じ』と『何かが始まりそうな感じ』を両立することになります。
さて。はじめの I – IV – V – VIm に話を戻し、この進行で I と IV を入れ替えてみます。すると IV – I – V – VIm という進行になりますが、先の話で言えばこれは『弱い緊張』→『強い緩和』→『強い緊張』→『弱い緩和』という展開になります。ループにおける二小節目と四小節目に安定感があり、四小節目は次のループへの繋ぎのようになるような形です。ループが IV の『弱い緊張』から始まりますが、直後に I による『強い緩和』があるので、ほどよい緊張感という感じです。
『アイネクライネ / 米津玄師』の A メロ前半が IVadd9 – I – V – VIm7 です。ほとんどの和音に『ド、ソ』が入っていて落ち着いた感じの進行になっています。またボーカルの入りは IVadd9 の上のソで、IVadd9 の透明感が出ていていい感じです。
『Gravity / BUMP OF CHICKEN』の A メロ前半も IVadd9 – I – V – VIm7 です。ボーカルの入りが IVadd9 の上のソを唄っているのも同じですね。IV の上でのソは頻出です。
『boyhood / PENGUIN RESEARCH』はサビ前半が IVadd9 – I – V – VIm です。これもまたボーカルの入りが IVadd9の上のソを叩いています。勢いのある編曲にすると、IVadd9 の上のソは特に尖って聴こえます。
『ray / BUMP OF CHICKEN』はサビ前半が IV – I – V – VIm7 です。サビ入りのボーカルは IV の上のドを唄っていて、ソの鋭さとは対照的にドは力強さが目立ちます。
上の進行でさらに I と V を入れ替えてみると、このようになります。これは『弱い緊張』→『強い緊張』→『強い緩和』→『弱い緩和』という展開になっていて、緊張のタイミングが前半に偏っています。なので、先ほどの IV – I – V – VIm に比べると少し強めの緊張感が付与されることが予想されます。
『キリフダ / BUMP OF CHICKEN』の A メロ前半が IV – V – I – VIm です。たしかに二小節目でもまだ落ち着かないような感じがして、それがやっと三小節目で解消されるという作りになっています。また、ボーカルの入りは IV の上のミ、つまり 7th になっていて、これもこの A メロのカッコよさに一役買っています。曲調によっては IV の上のソのような透明感は却って邪魔になるということですね。
〇 IV – V – I – VI
キメの VIm を VI に変更してみます。するとすべての和音がメジャーコードになるのでいわゆる『暗さ』みたいなものが消え、ノンダイアトニックコードの華やかさも相まって一気に明るく浮かび上がる感じの印象になります。物は試し、聴いてみましょう。
『-OZONE- / vistlip』ですが、サビのあとに構えているフレーズの前半が IVadd9 – V – I – VI7 です。シェルは順に M2→R→3rd→7th となっていて、キメの VI で 7th を唄うことによって、VI が鳴った瞬間の煌びやかな響きが補強されているという印象を受けます。IV の上の M2、つまりソが鋭く透明な響きになるのは先述の通り、V の上でルートシェル、I の上で 3rd シェルをそれぞれ取っているのもポイントが高くて(シェル。Soundquest 参照)、これらはカーネルとシェルの相乗効果によって、それぞれ愚直な力強さと強烈な情感を与えます。このメロのキャッチーさの一因は、間違いなくここにあると思います(他にもある)。
さらに I と VIm を入れ替えてみます。するとこれは『弱い緊張』→『強い緊張』→『弱い緩和』→『強い緩和』で、直前の IV – V – I – VIm にあった I による安定感の到来がさらに後ろへずれこむ形となります。ループの最後に満を持して解決感がやって来るという構図ですね。I から IV は四度上行(いわゆる強進行)なので、ループ頭へ戻るときに若干の引力があります(流れていく感じ?)。
『車輪の唄 / BUMP OF CHICKEN』の A メロ前半は IVadd9 – V – VIm – I – IVadd9 – V – VIm – VIm という進行をしています。四小節目から五小節目のループ頭へ戻るとき、メロディラインも相まって何だか引っ張られていくような感じがしますね(『僕等の体を運んでいく』という歌詞の通り)。
『オシャレ大作戦 / ネクライトーキー』のサビは IV – V – VIm – I です。歌詞もメロディもビートも、揃いも揃ってハイテンションのままに流されていく感じで良いですよね。
『メルティランドナイトメア / はるまきごはん』の B メロに IV – V – VIm – I が用いられています(『貴方はドアを開けたの 僕の世界のドアを選んだの』の部分)。それまでの展開と違って、何かが自動的に迫ってくるような錯覚に陥ります(後ろでリバース音が鳴っているのも一因だと思う)(ここの歌詞もやっぱり噛み合っていて、開いた扉の向こう側にいた何かの到来を感じる)(この曲の一番良いところは、その勢いを殺さずにサビへ突入するところ)。
上の進行で VIm と IIIm を入れ替えてみます。あるいは前のほうにみた IV – V – I – VIm で I を IIIm に置き換えると考えてもよいです。すると、かの有名な王道進行になります。これは『弱い緊張』→『強い緊張』→『弱い緊張』→『弱い緩和』という動きをするのですが、IIIm から VIm は四度上行なので、先ほどの I から IV への動きがそうであったようにある程度の引力を伴って進行します。それまでに連続した『緊張』をこの引力で一気に緩和へ持っていくのが王道進行で、その展開自体に緩やかな物語性があるので、こいつをループさせておくだけで一曲作れてしまったりもします(途中で飽きない)。
王道進行の派生形の一つとして、 VIm の直後に VI を挟むという形があります( IV – V – I – VI という進行を既にみていることに注意)。VI の和音はノンダイアトニックですが、直前に VIm というマイナー型のコードを挟んでいる分、若干の暗さを引きずっているような印象はありますが、VI が鳴る瞬間、たしかに全身がふっと浮かび上がるような感覚がします。
『Fight For Liberty / UVERworld』のサビ後半が IV – V/IV – IIIm – [ VIm – VI ] です。『たった一回しかチャンスが無いのなら』というフレーズの最後で VI が鳴っており、VI に特有の浮遊感が感じられます。また、この曲は VI の後、IIm へ進行しています。
となっていますが、これをみれば V→III→VIm の中にソ→ソ#→ラという(ダイアトニックだけだと実現しない)半音上昇が入っていることが分かると思います。IIIm が III に変化したことでソが半音上のソ#に吊り上がるわけですが、これはラの音へ向かいたがる傾向がとても強いです(傾性。Soundquest 参照)。その性質を利用して王道進行にあった IIIm→VIm の四度上行をより強力にしたというのが IV – V – III – VIm です。キメのところ(≒ここぞというところ)で使われることが多いイメージですが、息をするように使ってもそれはそれで味が出ます(後述)。
III という和音のイメージは『暗すぎ』または『カッコ良すぎ』です。これは肯定的にも否定的にもそうで、その『暗すぎ』だったり『カッコ良すぎ』だったりが、曲調によってはピッタリとハマったり、あるいは余計な印象になってしまったりします。そういうわけで使いどころを選ぶ和音ですが、綺麗にハマったときのカッコよさは最高です(『暗すぎ』とか『カッコ良すぎ』が『切なさ』だったり『疾走感』だったりに繋がるわけです)。
もう一度例に挙げます(良い曲なので何度も例に出したくなるんですよね)。先ほど IV – V – I – VI のときに紹介したパートの少し後、つまりサビの後にくっついているフレーズの後半部分ですが、そこが IVadd9 – V – III – VIm7 になっています。III が鳴る瞬間の何とも言えない張り詰めた感じと、次の小節線へ猛烈に進みたくなる感じを聴きとってください(VI のときとはまるで対照的)。この曲の場合、サビ後の『意外性』を演出するにしても同じことを連続で二回するのは能がないので、それぞれのパートで違った役者を立てているというわけです。
IV – V – III – VIm という王道進行の形から V を消してみます。するとこのようになるわけですが、IV の『弱い緊張』の直後に III というダイアトニックの世界にいない和音があり(ここに『意外性』がある)、さらに先述の通り、こいつは猛烈な力を以て VI 型の和音へ進みたがるので、この形の進行は拍車のかかった疾走感という印象を与えます(人に依るかとは思いますけど)。
後半についてですが、VIm が連続するのでは面白みに欠けるので、少し弄って最後の VIm を V に置き換えてみます。IV – V – III – VIm という形の王道進行で V を四小節目に動かしたと考えてもよいです。こうするとスタート地点こそ IV であるものの、基本的に 6→5→4→3 という順次下降を繰り返す形になることが分かります。『強い緊張』の代表である V がループ終わりにいて、かつ I のような『強い緩和』をもたらすキャラクターは相変わらず不在なので、単純な IV – III – VIm – VIm よりも緊張感がさらに増してダークさに磨きがかかった感じですね。
V の代わりに I7(構成音はド、ミ、ソ、シ♭)を置いてみます。I7 は I にテンションがくっついた形なので安定感のようなものは若干あるものの、シ♭という馴染みのない音があるおかげで複雑な響きになり、理由は省略しますが(二次ドミナント。Soundquest 参照)、この和音は IV(特に IVM7 )へ進みたいという欲求をとても強く持つことになります(もともと I→IV は四度上行なのでいい感じのパートナーなんですが)。その性質を利用して IV – III – VIm – VIm のような「四小節目の停滞感」を解消しようということです。
四小節目を模索するのはさておいて、二小節目の III を IIIm に戻してみます。すると III→VIm の持っていたソ#→ラという半音上昇は消えて、IIIm→VIm の四度上行による進行感だけが残ります。これは十分に強力な進行ですが、III→VIm に耳が鳴れてしまうとそれほど強くも感じなくなりますね。ということで、こちらは IV – III – VIm – VIm の強力すぎる進行感を弱めた進行になります。ダークな感じを前面に押し出したくないときはこちらを使ったほうがベターという印象が個人的にはあります。
〇 IV – IIIm – III – VIm( IV – IIIm – #Vdim – VIm )
436 進行の 3 はメジャーでもマイナーでも使えるということを上でみましたが、メジャーとマイナーの両方を連続させて組み込むことも可能です。この場合は IIIm→III という流れのほうが一般的のような気がします( III のソ#はラへ行きたがる性質をもつので、わざわざ吊り上げた以上はそのまま VIm へ繋げたいという気持ち)。
さらなる派生を考えます。初めに紹介した 436 進行は VIm が二つ分カウントされていましたが、IV のほうが二つ分カウントされるケース、つまり IV – IV – IIIm – VIm という進行ですが、これも頻出の形です。この場合は IV の『弱い緊張』がしばらく継続するのでまた違った雰囲気になりますが、ここで二つ目の IV を IVm に置き換えてみます。すると IV – IVm – IIIm – VIm という進行ができあがります。IVm の個人的なイメージは(どこをどう♭するかという問題がありますが、基本的には)『切ない』で、こうするとまた違った表情が演出できたりするわけです。
まず IV – IVm – IIIm – VIm の基本形に対して IIIm→VIm の間に #Vdim を挟んでいますが、これは IV – IIIm – VIm – VIm から IV – IIIm – III – VIm を作ったときと本質的には同じことをしています(パッシングディミニッシュ)。
次に VIm を直接 VI に置き換えるのではなく、VIm の直後に VI を置くという形で VI を差し込みます。これは IV – V – IIIm – VIm から IV – V – IIIm – [ VIm – VI ] を作ったのと同じです。
というわけで、既にみた複数の進行を組み合わせてできる進行がこちらになります。IVM7 の薄暗さ、IVmM7 の切なさ、 #Vdim の緊迫した躍進力を巻き込みながら展開が進み、VIm に落ち着くとみせかけて VI の希望感による裏切りを仕掛けるという構図。
『パレイド / 夏川椎菜』の C メロ(2サビ後)前半が IVM7 – IVmM7 – [ IIIm7 – #Vdim ] – [ VIm – VI ] です。『前に進んでいけるのかな』の『な』が唄われるのと同時に VI の和音が鳴っています。この曲でも VI の直後にあるのは IIm7 です。
〇 IV6 – IVm6 – IIIm7 – Im/bIII
IV – IVm – IIIm – VIm の基本形で VIm を Im/bIII に置き換えた進行です。ここにはステップが省略されていて、まず VIm を bIII に置き換えて、それをさらに Im/bIII に置き換えたという風に考えたほうがよいような気が個人的にはしています(パラレル・マイナー。Soundquest 参照)。Im は調の主役であるところの I がマイナーにひっくり返るわけなので、調性そのものを曖昧にするような効果があります(これまでにみた VI とはまた違った効果)。また、作り方から明らかなように、これも IIm7 へ接続します( IIIm→bIII→IIm の流れが土台にあるので)。