『パレイド / 夏川椎菜』について。

 

 表題の通り、今回は『パレイド / 夏川椎菜』について色々書いてみたいと思います。

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 リリース当時から「めちゃくちゃに良い曲だな~」というありきたりな感想を漠然と抱いていたものの、「じゃあ、具体的には何がどう良いのか」を自分なりに理解してみたい、という辺りに何となくのモチベーションがあり、それで様々を考えてみた結果がまあこれです。音楽理論について明るくなくとも、原曲を知っているかたであれば楽しんで読めるとは思います(というか理論については僕も全く知りません)。「裏でこんな音鳴ってたんだ」的な読み方もできると思いますので、是非に。

 

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※注意 

 間奏1→Aメロ→Bメロ→サビ→間奏2→Cメロの順でみていこうと思います。耳コピに不慣れなので進行とかメロディラインなんかに多少の間違いがあるかもです(許して)。なるべく具体例を挙げるようにしようという気持ちがあるにはあるのですが、自分が普段聴いている曲にどうしても偏ってしまうので、そこは許してください。

 以降、基本的に音楽の話をすることになると思いますが、途中で本楽曲に対する個人的な感想などを挟むことがあります(進行やボーカルのメロディについて話すパートで一緒に書いています)。また、音楽理論の専門的な知識を有しているというわけでは全くないので、誤ったことを言っている可能性が十二分にあります(何かあったら教えてほしい)。一から十まで個人の意見なので、解釈違いを起こしたらごめんなさい。

 この記事は全部でおよそ25,000字あります(あるらしいです)。そこで流し読みができるように『良い』という言葉(あるいはそれに類する用語)を無意味に太青字で書いています。自分が『パレイド / 夏川椎菜』の何を良いと思ったのかは、適当に流し読みしつつ太青字の部分だけ追ってくれれば大体わかると思います。

「マジで時間がねえんだわ」って人はCメロのところだけでも読んでください。

  

 以下で I,II,…,VII とかけばスケール上の和音のことで,1,2,…,7とかけばスケール上でみた各音の高さのことです。たとえば C メジャースケールの I はドミソを重ねたやつのことで、6はラのことです。また、いくつか和音の流れ(コード進行)を算用数字で表す場合があります(たとえば4536の王道進行など)。

 一応 MIDI を貼り付けてありますが、この記事を書くのに必要だった部分しか採譜していない上に、どう考えても聞き取れない音(パッドの構成音など)はかなり適当に埋めています。

 

 理論については以下のサイトを参考にしています(以下のサイトで学んでいます)。詳しくはこちらを参照してください。

soundquest.jp

 

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パレイド / 夏川椎菜

BPM:116

Key:A#maj(転調なし)

MIDIパレイド.mid - Google ドライブ

  

〇間奏1:全8小節

・進行

| D#M7(9) - F6 - | F#dim7 - Gm7 - | D#M7(9) - A# - | F - Gm7 - |

| D#M7(9) - F6 - | F#dim7 - Gm7 - | D#M7(9) - A# - | F --- |

・進行(degree)

| IVM7(9) - V6 - | V#dim7 - VIm7 - | IVM7(9) - I - | V - VIm7 - |

| IVM7(9) - V6 - | V#dim7 - VIm7 - | IVM7(9) - I - | V --- |

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 二番サビからCメロまでを繋ぐ部分以外の間奏です(青:コード、紫:シンセリフ)。

 進行は前半が4536(王道進行)ベースのパッシングディミニッシュを噛ませて5→5#→6の半音移動を組み込んだバージョン、後半は4156、その二つの繰り返し。ノンダイアトニックは F#dim7 だけ。4536を弄って半音構造を入れるのは、これ以外にも IIIm を III7 に置き換えてやるやつが頻出です。

 IV や V に妙な装飾がくっついています(シンセのメロディラインと聞いた感じから勝手に判断しただけなので、誤っているかもしれない)が、これについては後々説明できる部分があるので、ここではとりあえず置いておきます。

 間奏ではずっとシンセがピロピロ鳴ってます。最高音(6)は偶数拍の頭(もう少しテンボが上がれば奇数拍になりそう)。

 

 

 

〇Aメロ:全8小節

・進行

| A# - F/A - | Gm7 - Dm7/F - | D#M7(9) - A#/D - | Cm7(11) - F - |

| A# - F/A - | Gm7 - Dm7/F - | D#M7(9) - A#/D - | Cm7(11) - F - A# --- |

・進行(degree)

| I - V/VII - | VIm7 - IIIm7/V - | IVM7(9) - I/III - | IIm7(11) - V - |

| I - V/VII - | VIm7 - IIIm7/V - | IVM7(9) - I/III - | IIm7(11) - V - I --- |

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 色々な飾り付けが施されていますが、一応すべてスケールに乗った和音ではあります。これは所謂ったところのカノン進行で、ベースラインが1→7→6→5→4→3→2と下降していって、最後にツーファイブで2→5→1と一周します。Bメロへ向かうために八小節目は1で一旦解決(いつもの)。

 和音にくっついた飾りについてはメロディの部分で触れるとし、とりあえずこの段階で指摘しておきたいのは『この曲の軸には5の音がある』ということで、進行に使われているすべての和音に5の音(このスケールでは F)が組み込まれています。といってもカノン進行を使えば自然と5の音は多く入ってくるわけですが、なので注目すべきは妙なテンションのついた IVM7(9) と IIm7(11) で、それぞれ9と11が F(つまりスケール上の5)になっています。

 

・メロディ(ボーカル)

 1から7の音にはそれぞれ特性があります。詳しく知りたい人は各々調べてもらうとして(キーワード:SoundQuest、傾性、カーネル)、個人的な印象を適当に書いておくと(読み飛ばしていい)、

→1(主音):最安定。

  • フレーズの終わりはとりあえずこれにすると落ち着く(やりすぎはよくない)。
  • 連打してもロングトーンにしても違和感がない。真っすぐ。
  • 長調ではこれが主役。

→2(上主音):不安定。

  • フレーズの終わりに置くと宙づりになった感じがする(浮遊感がある)。
  • 連打されると何かに突き動かされるみたいな感じがする(例:『天体観測 / BUMP OF CHICKEN』サビ、『見えないモノをようとして』(赤字が2の音))。

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  • これを軸にメロディを組むと、何となく浮遊感が出てくるような気がする(例:『Aurora / BUMP OF CHICKEN』Cメロ。『もう一 もう一度 クレヨン 好きように もう一 さあどうぞ 好きな色で透明に』(赤字が2の音))。

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  • 1と3へ行きたがる(どちらでも行ける。1のほうがポテンシャルは低そう)。

→3(中音):安定。

  • 主音と同じくらいには安定している一方でカッコよさ(情感)もある。
  • 連打しすぎると若干暗くなる印象が(個人的に)ある。
  • 伸ばし放題。

→4(下属音):めちゃくちゃ不安定

  • 経過音的な使い方が主という印象がある。
  • 連打すると何もかも終わりそうな気がする(やったことがない)。
  • 半音下安定音の3へ進みたがる(『傾性』)。
  • 順次進行の文脈なしに傾性を破って5へ行くとエモくなりがち。

→5(属音):安定

  • センスが最も問われそうな音、という印象がある。
  • いわゆる『キメ』で使われるのはだいたいこの音、という印象もある。
  • なんていうか、不思議と力強い。

→6(下中音):不安定?

  • 短調でないなら)5のオマケという印象(5→6→5みたいに一瞬上へあがったりする)(例:『chocolate insomnia / 羽川翼』歌い出し。『ごんね』の『』が6)。

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  • 一つ上にある7がヤバいので大体は5か他の安定音へ行く。たまに7へ行く。

→7:導音:めちゃくちゃ不安定

  • 半音上安定音の1へ進みたがる(『傾性』)。
  • ずっと鳴っていると本当に気持ちが悪い。
  • 普通は1(主音)へ行くところを、あえて7を経由してから1へ進むという場合がある。

という感じ。長々と書きましたが大事なのは『スケール上のそれぞれの音に様々な役割がある』ということです(これはメロディ分析には不可欠な視点っぽい)。それとはまた別に『その音がどんな和音の上にあるか』でも1,…,7の性質は若干変わってきます。これも詳しく知りたい人は各々調べてみてください(キーワード:SoundQuest、シェル)。以下では特に何の説明もなく使います。

 

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 Aメロのボーカルラインです。

それぞれコードの変わり目のメロディが「スケール上で何音目か」と「和音上で何音目か」をみていくと、

D(3,3)→C(2,5)→A#(1,3)→D(3,1)→A#(1,5)→D(3,3)→D(3,9)→C(2,5)→

らき みつてい せびでといためのせかい

D(3,3)→C(2,5)→A#(1,3)→D(3,1)→F(5,9)→D(3,3)→A#(1.7)→C(2,5)→A#(1,1)

そにきずかな きうさをくにもとめる

となります。(*,3) になっている音は和音の長短を最も色濃く反映するので特に重要で、情緒感を演出するエース的存在です。(*,5) は真っ直ぐで力強い感じ、(*,7) は複雑なイメージ(衝突の濁りによる副産物)をそれぞれ付与するという感じですが、前の * の部分に入る数字の方がどちらかといえば本質的です。Aメロでは (*,3) の音が多用されており、全17回のうち6回が (*,3) です。Aメロ全体に漂うどこかノスタルジックな空気は、ここら辺の要素にも由来しています。

 最初の D(3,3)→C(2,5)→A#(1,3) (『らゆ 空沈む』)は下降形になっていて、カノン進行によるベースラインの下降とあわせて聴いていて心地良い感じがします。それに加えて (*,3) の音が二つ入っているので絶妙にノスタルジック(先述の通り(*,3)は情緒の演出家)。しかも歌詞(歌い出し)は『ゆらゆら 空は沈む』なので、この時点でもうスタンディングオベーションじゃないですか? 心ごと沈んでいく感じがしますよね。

 これは余談ですが、同じくカノンコードを用いた楽曲で、コードの変わり目にある音が下降形になっている曲として『いつも何度でも / 木村弓』があります(『千と千尋の神隠し』の主題歌、歌い出し。『呼んいる のどか奥 い躍る を見たい』、『』→『』→『』→『』→『』→『』と下降して『夢(め)』で一気に上昇します)。

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 上の楽曲では (*,3)→(*,5) の形がずっと繰り返されていて、パターンによる聴き心地の良さと、それでいてメロディは割と跳躍するので飽きない感じ、加えて (*,3) が何度も鳴ることによる情緒マシマシな感じがあります(一度でも聴いたことがある人は解ってくれるはず)。

 先に挙げた (*,*) の列でみてほしかったのは「((*,*) で表したときの)二番目の数字の方には割とバリエーションがある」ということでした。このことはBメロのほうでまた触れます。一方で、メロディ自体は A,A#,C,D,D#,F の六つしか使われていなかったりします。音の幅そのものは狭くても、どこに置くかによって色が変わってくる、ということですね。

 

 メロディラインについても触れておくと、前半は下降形。四小節目1→2→3の順次進行から4(D#)が出てきて、またすぐに3へ落ちていますね(『傾性』)。ここの頭にある3は IIm7(11) という和音の構成音ではありませんが、直前が順次進行であることと、直後が和音の構成音4であることから正当化されます(多分)。四小節目終わりは、二小節目終わりの3(D)より全音低い2(C)で、1からの進行ということもあって、爪先がちょっとだけ浮いたような感じ。

 続いて六小節目では1→5の跳躍があります(一番『嘘でも傷つかない』)。5へ跳躍すると気持ちがいい(IVadd9 上だとなお良い)という事実が知られており、5の持つ力強さと安定性に基づいた感覚であるような気がします。実際、多くの楽曲でいわゆる「キメ」の部分に5の音が使われており、当楽曲においても終盤で登場します(そのときにまた触れますが)。また5はAメロでの最高音でもあります。この跳躍で5をチラ見せしておいて、その後には5→5→4→4→3→3→2→1と下降していくフレーズへ自然に繋いでいます。良いですよね、ここの跳躍。たとえば5の跳躍の部分1→5→3をAメロと同じ1→2→3の順次進行にしてやると、違和感のあるフレーズというわけでは決してないものの、それでも最高音が出し抜けに現れることにはなるので若干の唐突さがあるような気がします(果汁10%と9%くらいの違い)。

 また、Aメロは四分音符と八分音符がちょうどいいバランスで組まれていて、表頭(コードの切り替わり)に四分、その間を八分で埋める、という構造が基本となっており、表拍を随分と強調しているような感じがします(七小節目までは、どの小節にも必ず四分音符が置かれています)。最後の5→5→4→…(一番『器用さを僕に求める』)に差し掛かるまではずっと同じようなリズムが繰り返されるので、結果的に相当の安定感があり、カノンコードやベースラインの下降による効果、加えてボーカルの歌い方なども相まって、Aメロは全体的にとても落ち着いた印象。逆に言えば、『器用さを僕に求める』の部分においては小節全体が八分音符で敷き詰められ、これがBメロへの良い伏線になっている気がします(後述するBメロは八分音符が主体)。といってもメロディそのものはやはり下降形になっているので、今までの型を崩したところで安定感が損なわれることはなく、聴いていてとても心地良いです。

 補足:五小節目からは一オクターブ上に全く同じフレーズでコーラスが入っています。

 

 

・その他

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 ずっと鳴っている、丸い音をした謎の楽器(これ何?)。このメロディラインをみてやれば、各和音の構成音がある程度は特定できます(たとえば二小節目の IIIm には 7th が乗っているとか)。

 実は、このAメロではこいつがずっと5の音(F)を鳴らし続けています。初めのほうに『この曲の軸には5の音がある』と言っていたのはこういうことです。この曲では、ボーカルのメロディに5がそれほど現れないことと対照的に、裏では様々な楽器が終始5の音を鳴らし続けています。この曲の全体に宿っている「あまり動かない感じ」の一因はこういうところにもあるような気がします(5は1と同じくらいに安定なので)。また、メロディ(ボーカル)の部分で「表拍を強調している」みたいなことを書きましたが、この楽器もそうですね。

 

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 ピアノ。四小節目、ボーカルのメロディと同じフレーズをなぞりつつ、ボーカルが切れるタイミングで新しいフレーズに移っていきます。五小節目から六小節目にかけて、高音域の表拍で5の音(F)を鳴らし続けており、さっきまでは上の謎楽器だけだったのがここで補強され、曲全体における5の存在感がより鮮明になります。また、表拍の強調もここでさらに補強されます。さらに五小節目からはベースとエレキギター(左側で鳴っている)も表拍の強調役として入ってくるので、もう盤石という感じです。

 この曲の好きな部分として「ボーカルのメロディラインは高音域の5(F)までは届かない」のに「ピアノやシンセなどは高音域の5を鳴らし続ける(し、それより上へは動かない)」ということがあります。ボーカルの目線からみると上から押さえつけられてる感じがするというか、透明な天井があるように思えるというか、それでいて5は安定して鳴り続ける音なので突き破れそうにもない感じがして、なので上に述べていた「あまり動かない感じ」というのはどちらかといえば、「あまり動けない感じ」と表現した方が正確という気がします。要は「響き続ける高音域の5」という一人称(歌い手)には越えることのできない壁があるということで、ここら辺が歌詞の内容とリンクしているような感じがして本当に良い!!!!

 

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 これはシンセ、上の方で鳴っている丸っこい音です。他の楽器隊が軒並み表拍を強調している中で、唯一自由に動き回って裏拍を補う陰の主役です。音が細く、かつ右側で薄ら鳴っているだけではあるものの、これがあるとないではAメロの印象が結構変わると思います。このシンセが裏を走っているおかげで表拍の立ち位置が(十分に強いですが)強くなりすぎず、結果的に全体のバランスが保たれているという感じ。

※追記(20200621):「こいつがマーチング感を強めている気がする」という指摘があり、納得したものの素養が無なので理由が分からず終わっています。何故?

 下側にボーカルのメロディラインを同時で表示しているのですが、ボーカルが下降するところ(たとえば一小節目の頭や三小節目全体)ではこのシンセは上昇しており、逆にボーカルが上昇するところ(たとえば二小節目から三小節目にかけて)ではこのシンセが下降していて、普段聴いているときには全く意識していなかったので、採譜しているときに思わず「良すぎ!!???!?!」と叫んでしまいました。編曲においてたとえば和音、ベースライン、ストリングスなんかをメインで聴かせたいフレーズの動きと逆行させるということは基本中の基本だったりするわけですが、それをここではボーカルとシンセでやっているという感じです。普通に聴いていても案外気づけなかったりするのでいい機会でした。「逆行させる」の例としては、いくらでもあると思いますけれど、自分の知っている範囲で特に分かりやすいものだと『ハンマーソングと痛みの塔 / BUMP OF CHICKEN』最後のサビ前、『同じ高さまで降りてきて!』の直後、ボーカルのフェイクとベースラインが逆行しています。 

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 ふと思い出したんですが、『ミツバチ / Le☆S☆Ca』のAメロ(一番『そこに込められた』)もそうですね。

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※参考記事

kosamega.hatenablog.com

 

 

〇Bメロ:全10小節

・進行

| D#M7(9) - A# - | F7 - Gm7 - | D#M7(9) - A# - | F7 - Gm7 - |

| D#M7(9) - A# - | F7 - Gm7 - | D#M7(9) - A# - | Fsus4 - F - |

| Fsus4 - F - | ---- |

・進行(degree)

| IVM7(9) - I - | V7 - VIm7 - | IVM7(9) - I - | V7 - VIm7 - |

| IVM7(9) - I - | V7 - VIm7 - | IVM7(9) - I - | Vsus4 - V - |

| Vsus4 - V - | ---- |

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 間奏1の後半部分と同じ4156です。実は間奏2と同じ進行です。諸々がくっついているせいで V7 以外では終始1,3,5(A#,D,F)の音が叩かれています(ここの V7 は V とみたほうがいいかも?)。最後は Vsus4 による引き延ばしでサビ頭の IVM7(9) へ。Bメロでもノンダイアトニックコードは出現しません。

 ここで話すのかよって感じですけれど、個人的に「IVM7 はカッコいい。使い方によっては若干陰鬱」(多分BPMの問題。速いとカッコいいし、遅いと暗い)、一方で「IVadd9 は透明。ずっと聴いていたい」という印象を持っており、今回大量に使われている IVM7(9) はその中間にいるような感じがします。具体的には透明感と閉塞感の両立という風な印象なのですが、このBメロは特にその傾向が強い気がします(インスト音源を聴いてみてください)。勝手な感想を言えば、青空の下を歩いている感じなんですよね、ここ。晴れてるし、気温もちょうどいいし、風が吹いていて、近くには川も流れていたりして、散歩としては何一つの不満もないものの、ふと見上げた空の色があまりに高すぎて、そうして心のどこかでは何かを諦めてしまっている感じ、……みたいな? 透明感と閉塞感の両立ということについて、この曲に対して自分が持っているイメージの一つです。

 ついでに IVadd9 の透明感について少し触れておくと、二曲ともこのブログで触れたことが何度かあるように思うのですが、『変わらないもの / 奥華子』のサビが VIm7 – IVadd9 – Vsus4 – I で、sus4 の効果もあり透明感がマシマシになっていてとても自分好みです。

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 同系統だと『(please)forgive / BUMP OF CHICKEN』は一曲を通してずっと IVadd9 – Vsus4 – I/III – VIm7 の組み込まれたループ進行で作られています。といっても、BUMPはorbital period以降 IVadd9 の申し子になっているので、BUMPの曲ではそれほど珍しくもありませんが。 

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・メロディ(ボーカル)

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 Bメロのボーカルライン。Aメロのときのもやったこと、つまりコードの切り替わりにいる音についてそれぞれ「スケール上で何音目か」と「和音上で何音目か」をみてやると、

A#(1,5)→A#(1,1)→D#(4,7)→D(3,5)→A#(1,5)→A#(1,1)→C(2,5)→A#(1,3)→

『いといえほどつくなく なしていよ だいなも

A#(1,5)→A#(1,1)→D#(4,7)→D(3,5)→D(3,7)→F(5,5)→F(5,1)→A#(1,11)→C(2,5)

『すきなもをてにれるけ えいてたぶんは もう どにもいない

となります。

 一見してすぐに分かることとして、Bメロでは (*,5) の使用頻度がめちゃくちゃに高く、上にある全17回のうちの8回が (*,5) になっています。次に多いのが (*,1) で4回。Aメロで多用されていた (*,3) はたったの1回しか出てきません。Aメロパートでも言っていたように (*,3) は情緒感の演出家みたいな側面がある一方で、(*,1) はド単調(超単純、一直線)、(*,5) は (*,1) に次いで単純で (*,1) よりは高揚感みたいなものに若干寄りがち、という性質があります。そのためBメロでは「スケール上で何音目か(カーネル)」のほうがそれなりに重要になってくる(「和音上で何音目か(シェル)」の影響が薄い)わけですけれど、これも見てすぐに分かる通り (1,*) がめちゃくちゃに多く、全部で8回使われています。(1,*)(主音)は超安定ということだったので、Bメロ全体としては一直線の (1,*) に曖昧な高揚感の (*,5) をちょくちょく混ぜ合わせたという感じになっています。

 Bメロの力強さを支えている要因は他にもあって、たとえば一小節目の頭、Aメロでの最高音を一気に突き破ってオクターブ上の1(A#)まで跳躍しています(跳躍は幅があればあるほど""強い""(本当に?))。さらに同じ小節内の三拍目では最高音をもう一度叩いています。主音がそもそも安定しているので、主音の最高音はかなり真っ直ぐに響きます。Bメロでは、そんな1の音を(途中で1(A#)よりも高い2(C)が出ていることに目を瞑れば)全部で8回も鳴らすので、それはもう”力強いが凄い”です(例:『ディアマン / BUMP OF CHICKEN』サビ、『どこにだって行け らはここにいたままで』の『だって』、『』、『』が主音かつ最高音。はじめの二つが IV の上の第5音、『』は I の上の第1音)。

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 あとは単純に、このBメロからボーカルの歌い方に少しずつ熱がこもってくるということもありますね。曲の構成単位、その全部がBメロの強さを支えているという感じです。

 

 メロディラインについても触れておきます。ぱっと見で分かることがいくつかあって、まずは音域がかなり広いこと、次に八分主体のフレーズであること、あとはやたらと階段形になっている(順次進行である)こと、この三つです。これらはいずれもAメロでは見られなかった傾向だということで、ここで少しだけ雰囲気が切り替わったような印象を受けます。Aメロ→Bメロで一気に最高音を突き破るという話を上でしましたが、こういった部分にもAメロとBメロとの差別化がなされています。また、ここでもやはり表拍が強調されています(上の1,2はすべて表拍にある。)。

 ほとんどずっと八分音符でメロディが続くので安定している感じがあり、それも順次進行ばかりで跳躍がほとんどありません。なので数少ない跳躍の力強さがかなり目立ちます。先にみたように、メロディの部分部分については十分な力が宿っているわけで、それを順次進行による安定感がいい感じに薄めているという感じがあります(力強くなりすぎない。Aメロのシンセと同じ、バランスの問題)。順次進行を鬼のようにやっている曲の例としては『新世界 / BUMP OF CHICKEN』(特にAメロ)があります。聴けば順次進行の安定感が如何ほどかということが実感できると思います(『頭良くないけれど 天才なのかもしれないよ』の『もしれ』が同音、直後の『』が全音二つ分の跳躍。それ以外はすべて順次進行)。

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 跳躍したと思ったらすぐに下がるし、そうかと思ったら1(A#)をさらに越えて2(C)を叩くし、なんだか行ったり来たりを繰り返しながらぐるぐると迷っているような感じがしますよね、このBメロ。最後の Vsus4 に差し掛かる直前(『描いてた自分は もう』)、D(3,7)((*,7) の音)に始まり、かつ前後いずれの和音の構成音でもない6(G)で折り返すせいか、不思議と印象的なフレーズな気がします。一回目の Vsus4 - V (『描いてた自分は もう』)ではハモリが A#(1,4)→A(7,3) という定番の動きをしています。その Vsus4 で引き伸ばした後には正真正銘の最高音 C(2,5) を叩いてサビへ。(2,*) の浮遊感と (*,5) の力強さがサビへの期待感を後押ししていてとても良いです(これも定番ではあるけれど)。

 

 

・その他

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 ピアノ。下の5(F)から2オクターブ上の5(F)へ駆け上がるグリッサンドから始まります。Aメロでは比較的動きがありましたがBメロだとおとなしめで、基本的には和音を鳴らしつつ、要所要所で合いの手みたいなフレーズを入れてきます。また偶数小節目の後半には必ず1→7→6→5と下降します。七小節目で最高音の5(F)から下降。八小節目ではさらにオクターブ上の5(F)から下降。途中のトリルが気持ち良すぎ。ボーカルが C(2,5) のロングトーンへ入ったところで十六分音符に変わって、さらにキメのリズムを叩き、その後は一気に駆け下りるグリッサンドでサビへ入っていきます。

 

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 これはシンセ。上の方で鳴っている丸っこい音です。Aメロにあった「5(F)の壁」をBメロで担っているのがこいつで、ずっと5(F)の音を鳴らしています(部分的に下がったりもしていますが)。ピアノが5(F)の音へ向かってグリッサンドを決めていたのは、恐らくこの音への伏線です。終盤、Vsus4 へ差し掛かったところから下降していき、最後はピアノと同じフレーズでキメのリズムに入ります。

 

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 これもシンセです。こっちは二番のBメロで新しく入ってくる音ですが、ずっと十六分でピロピロ鳴ってます。Bメロでは表拍を意識させるものとしてボーカル、キック、エレキギター、ピアノがありますが(エレキギターはカッティングで鳴っているので、裏拍も一応補っている)、それ以外を補っているのがベースだったりハイハットだったり、あるいはこのシンセだったりします。まあ、この音はほとんど聴こえてこないわけですが、聴こえないものの欠かせない音というのがあり、これはその一種です。

 このタイミングでドラムスやベースの話もついでにしておきます。ドラムスはかなり単調で、サビへ入る前以外に特別なことはしていません(この単調さが後半で活きてくる)。それとハット類ですが、一応Aメロでもずっと表拍で鳴っています(キックに合わせて金物を鳴らす、お馴染みのやつです)。それはBメロでも継続して叩かれていますが、オープンが入ってくるのはBメロからで、今度は裏拍で叩かれています。加えて五小節目の前後では明らかに叩く強さが変わっています。同じBメロの中でもサビへ向かうにつれて盛り上がりが演出されているということです。また八小節目、ボーカルが F(5,1) のロングトーンへ入ったところ、あるいはピアノが高音域の5(F)へ飛ぶところ、そこからは表拍で叩かれています。それまでは表と裏に分離していた楽器が一気に表に寄ってきて、キメのリズムへ向かうための助走をとっている感じがしますね。二番になると一番で鳴っていたアコギの弦を擦る音(シェイカーみたいな音)が引き続いて裏拍を補っています。

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 ベースは基本的に表裏の区別なしに鳴っていますが、意識して聴いてみると分かるように、表じゃないところ、特にコードの変わり目付近でぐねぐねと動いています。さらに八小節目の終わりから九小節目にかけて、ピアノが高域の5(F)をさらに突き破ってオクターブ上の5(F)を鳴らす辺りで、実はベースも1オクターブ上の5(F)へあがっています。あるメロディが上昇したときに他の楽器を下降させる、あるいはその逆もそうですが、編曲ではそういった『逆行』の構造が要求されることがある、みたいな話をAメロのシンセのところで少し書きました。それは多分、曲単体がもつ層の厚さのようなものをどれだけ多層的に保てるか、みたいな話だと個人的には思っているのですが、ここではその逆をしています。その九小節目ではベースが低域から消える(ように感じる)ので多少の浮遊感があり、十小節目までには戻ってくるので、直後にある「キメ」の重みがより鮮明に感じとれて良いですね。

 あとは多分、Aメロの謎楽器も継続して鳴っているような気がするんですが、うまく聞き取れませんでした(本当に鳴っている?)。

 

 

〇サビ:全8小節

・進行

| D#M7(9) - F - | Gm7 - F - | D#M7(9) - F - | A# --- Cm - Dm - |

| D#M7(9) - F - | Gm7 - F - | D# --- | D#m --- |

・進行(degree)

| IVM7(9) - V - | VIm7 - V - | IVM7(9) - V - | I --- IIm - IIIm - |

| IVM7(9) - V - | VIm7 - V - | IV --- | IVm --- | 

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 456形です。4565はカッコよさと安定感をいい感じに兼ね備えていていいですよね。『POSSESSION / TAG underground』とかは最初以外ずっと4565だった気がします。

www.nicovideo.jp

 最近あまり聴かなくなったのでこれは適当な憶測ですが、爽やか系ハードコアとかはこの進行が結構使われていそうないなさそうなイメージがあります(超憶測)。

 八小節目の IVm はノンダイアトニックコードでサブドミナントマイナーという名称があります(構成音は4,b6,1でb6がスケールに乗っていない)。初めの間奏で #Vdim7 というのが出てきていましたが、IVm のほうがノンダイアトニック感は強い気がします(#Vdim7 はどうしても橋渡し感が強いという気がしてしまう)。

 サビの最後はだいたい I で解決させるのですけれど、これをやらないのがいわゆる偽終止というやつで、それには様々な種類があります(本当に様々がある)。IV による終止は若干の余韻を残すという感じで、その例は古今東西様々があると思いますが、僕は『Aurora / BUMP OF CHICKEN』が好きなのでそれを挙げておきます(二回目)。

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 今回は IVm による終止なので絶妙な物悲しさが残るという響きになっている気がします(あとは若干の浮遊感)。これと同じことをやっているのが、たとえば『全力少年 / スキマスイッチ』一番サビ。こちらは IIm – IIIm – IV – IVm と終止しています。

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『パレイド / 夏川椎菜』においても、サビ終わりは何とも言えない空っぽだけが残っているような、そんな感じがありますね。

 IVm について少しだけ触れておくと、こいつはポップスなら IV – V – IIIm – VIm(4536)と IIm – IIIm – IV – V(2345)の派生でよく出てきます。具体的には、4536のほうだと V を IVm に置き換えたり、2345なら IV – V を IVm – Vm に置き換えたり、といった風に。例は前者が『Yes! Party Time!! / - 』のBメロ冒頭(『ネオンの中で泳ぐ 熱帯魚のように 今日こそ』)、後者が『流れ星の正体 / BUMP OF CHICKEN』のサビ(『音を立てて響く声』)(赤字が IVm の部分)。

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 こういった使い方だと、物悲しさはさておき浮遊感だけが前へ出てくるという印象があります(恐らく部分転調のせい)。

追記:サビのV、最初は V6 なのかなと思って記事を書いている途中に V へ戻したんですが、どっちなんでしょう?

 

 

〇メロディ(ボーカル)

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 恒例のあれをやってみると、

D(3,7)→D(3,6)→D(3,5)→D#(4,7)→A#(1,5)→A(7,3)→F(5,5)→

『ああ まくわえてた いのぼく こなじゃな

D(3,5)→D(3,7)→D(3,6)→D(3,5)→D#(4,7)→A#(1,5)→A#(1,5)→A#(1,5)

から のたけあわな きいごと くちずむのか

となります。(*,5) の独壇場であるというのはBメロと同じような状況ではありますが、決定的に異なっているのが (*,1) が全く出てこないという点です。そうして消えた (*,1) の代わりに V の上の (*,6) と複雑系の (*,7) が目立ち、これまでとはまた違った構成になっていることが分かります。

 八分音符による同音連打と順次進行が基本で、跳躍はほとんどありません。これもAメロBメロとは異なる構成です。何度も連打される D の音はスケール上の3で安定している一方、情緒感がとても強いです(SoundQuestでは『リライト / ASIAN KUNG-FU GENERATION』のサビが紹介されていた)。

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『パレイド / 夏川椎菜』の場合、最高音はそのさらに半音上にある4(D#)で、メロディライン的には3(D)の連打から一瞬だけ上にぶれる風に使われており、これによって3の情感による揺さぶりをかなり強く補っています(『今の僕は(いのぼくは)』。高まる感覚)。また3(D)が連打されているのは IVM7(9) の和音の上(つまり D(3,7))なので、お洒落というよりはかなり複雑さに寄った響きになっています(ルートの4に衝突する)。準最高音である (3,*) のエモーショナルな感じを (*,7) が複雑な響きにしているといった具合。そこにボーカルの歌い方も相まって、この部分(『ああ 上手く笑えてたら』)の「訴えかけてくる感じ」が相当に高まっています。良いですよね、ここ。IVM7 上の3が鍵になっている曲で好きなのは『太陽 / BUMP OF CHICKEN』のAメロです(『二度と朝は出会わない 窓のない部屋』)。

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 四小節目の5(F)からオクターブ上の4(D#)への跳躍、こういう半音なり全音なりの関係にある二つの音を使った跳躍って結構みかける気がするし自分もたまにやるんですが、理論的な話題はあったりするんでしょうか?(何も知らない)(今回は一旦メロが切れているのでまた別の話かもしれない)

 最後の IVm、ボーカルがしっかりとb6(F#)の音をなぞり、しかもその後は5(F)へ半音下降していて、そこもまた綺麗で良い流れですよね。IVm は短三度上への部分転調という見方を僕はとりあえず採用している(これは諸説あり、実はよくない)のですが、そうなると C# が1になり、コードの変わり目にいる A# は6、F#→F→D# の動きは 4→3→2の動き(『傾性』)というようにそれぞれなっています。これまでにも繰り返し使われていた主音の A# が、ここ(『くちずむのかな』)ではまた違った響き(ちょっと暗め)になっていてとても楽しい(6の音だから?)。最後の D#→A# は和音の構成音による跳躍で、IVm 終わり(部分転調終わり)にはちゃんと元の主音(A#)に戻ってくるという感じです。

 曲に関する意見を少しだけ書いておくと、サビ入りの『ああ』というフレーズがサビの起爆剤になっているような気が個人的にしています。感嘆詞は感情の起伏によって思わず生じてしまうものという認識が(個人的には)あるので……。サビ終わりの『ああ ああ ああ ああ あー』という歌詞も、そうなってくるとめちゃくちゃに良いフレーズですよね。よくあるフェイクなんかじゃなく、紛れもない歌詞として刻まれていることの意味、みたいな。それと、これはこの曲全体を通して言えることですが、歌詞にやたらと否定形が多く、サビではそのことが特に顕著ですね。加えて『くちずさむのかな』とか『手放せないんだ』とか、サビだけは若干口語に寄っているのもかなりポイント高めです。一人称の感情がストレートに押し出されている感じがして。メロディラインによる揺さぶりというものについて上で言及しましたけれど、ボーカリストは勿論のこと、歌詞もまた「訴えかけてくる感じ」において決して欠かせない構成要素の一つになっています。

 結局、ここで4(D#)へは到達したものの、これまでに他の楽器(ピアノ、シンセ)が鳴らしていた最高音5(F#)まではまだ手が届きません。また、この直後に触れますが、サビでもずっと5(F)の音が鳴っています。

 

 

 

・メロディ(その他)

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 丸っこい音のシンセです(裏拍でンワンワ鳴ってるのじゃないほう)(四小節目が一番聞き取りやすい)。見て分かるように、サビの間ほとんどずっと5(F)の音を鳴らし続けています。

 

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 こっちが裏拍でンワンワいってるほう。流石に構成音までは聞き取れないので、トップノートくらいしかちゃんと拾ってませんが……。一小節目と三小節目の後半はそれぞれ同じ V のコードなので同じトップノートでも構わないんですが、前者が5(F)、後者が2(C)になっています(2が鳴るとこ、めちゃくちゃ好き。「なんか聞こえた!」ってなる)。

 この音が入ってくることで、サビでは裏拍がかなり強調されています。ついでのようにドラムスの話をしておくと、リズムは相も変わらず単調です。金物類はBメロに引き続いて強めのオープンハイハットが右側裏拍で鳴っていて、左側では表拍でキックに金物成分を付与するためのそれが鳴っています。二番サビになると左側でライドシンバルが暴れはじめます(意識して聴かないと気付かないくらいの違いですけど)。ラスサビでは左側のライドシンバルもかなり騒がしくなっているので、一番サビとラスサビを聴き分けてみると分かりやすいかもしれません(一番サビでも一応鳴ってはいます)。

 

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 ベースについて、最後の IV(『きれいごとを』の後)にシンセが1→7の下降をしてから7→5の上昇をするのと同じタイミングで、ベースもルート音の4(D#)からオクターブ上の4(D#)へ上昇しています。ここはボーカルがロングトーンで真っ直ぐ、コードが変わらないためパッドも単調になっているという部分なので、この二つが一緒に上昇することで若干浮かび上がった感じがしますね。また、丸っこいシンセがスライドで落ちてくるのと一緒にベースも元の4(D#)まで戻ってくるので、IVm の浮遊感が強くなりすぎずほどよいところに留まっていて良い感じ。

 IVm のところでピアノが構成音を高音域で鳴らしているのもまた良いですよね。ありきたりといえばありきたりなんですけど、サビの間、そこへ差し掛かるまでは高域のピアノが出てこないので最後に少し鳴らすだけでなんだか煌びやかな印象が残りますし、ここがノンダイアトニックコードであることも相まって、複雑なフレーズを弾いているというわけでもないのに不思議と印象的です(しかもトップノーツはちゃんとスケール上の音、特に最後のものは主音になっているのでとても落ち着く)。

 

 

〇間奏2:全8小節

・進行

| D#M7(9) - A# - | F7 - Gm7 - | D#M7(9) - A# - | F7 - Gm7 - |

| D#M7(9) - A# - | F7 - Gm7 - | D#M7(9) - A# - | F7 - A# - |

・進行(degree)

| IVM7(9) - I - | V7 - VIm7 - | IVM7(9) - I - | V7 - VIm7 - |

| IVM7(9) - I - | V7 - VIm7 - | IVM7(9) - I - | V7 - I - |

 基本的にBメロと同じ進行です。最後はCメロへのつなぎということで一旦 I に終止しています。

 

・メロディ(ピアノ)

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 サビの最後、高音域で IVm の構成音を鳴らしたピアノがそのままボーカル消失後の主役を務めています。ボーカルのときにやっていたコードの切り替わりにある音(トップノート)について「スケール上で何音目か」と「和音上で何音目か」をみてやると、

F(5,9)→A#(1,1)→C(2,5)→A#(1,3)→F(5,9)→A#(1,1)→C(2,5)→D(3,5)→

F(5,9)→A#(1,1)→C(2,5)→A#(1,3)→F(5,9)→A#(1,1)→D#(4,7)→A#(1,1)

となります。

 IV における9の音からフレーズが始まり、鋭く突き刺さるような透明感が気持ちいいリフです。(*,1)、(*,3)、(*,5) も比較的バランスよく配置されていて、何かに偏っているという感じはしません。それに全体として主音である1(A#)が軸にされていて、このことも「偏っている感のなさ」に寄与している感じです(サビのボーカルが主音終わりなので、その残響を受け継いでいる感じがして非常に良い)。だからこそ最初に最高音で鳴らされる F(5,9) の透明感が全体的にかなり目立っていますね。

 それと、やっぱり気になるのは全体で二回だけ鳴らされている D#(4,7) です(四小節目と八小節目)。めちゃくちゃ良くないですか、この音? これがあるおかげで響きが随分と豊かになっているような感じ。(4,7) は超絶扱いにくい(使いどころを見誤ってはいけない)という印象があり、しかしここではその強すぎる傾性をとても効果的に使っているという気がします(四小節目と八小節目だけは軸が1からずれている)(「豊かな響き」の正体は多分この強烈な不安定さ)。

 

 

・その他

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 シンセです。最後のほうは露骨ですが、実は間奏に入った瞬間からずっと鳴っていて、間奏2において「5の壁」を作っているのはこの音です。

 

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 エレキギター。五小節目から右側に入ってきて、1と2を往復しつつ、時々フレーズを奏でることでCメロへの助走に一役買っています。最後、八小節目に1(A#)→5(F)→5+(F)という動きがあり、これはピアノ伴奏と同じようなそれですが、ピアノリフの4(D#)→3(D)→2(C)という下降に逆行して上昇しています。ここがめちゃくちゃに良い!!! このときに鳴っている5+(F)の音が本当に好きです(是非とも実際に聴いて、こいつの良さを確かめてみてほしい)。 

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〇Cメロ:全8小節

・進行

| D#M7 --- | D#mM7 --- | Dm7 - F#dim - | Gm -- G ---- |

| Cm7 –Dm7 --- D#M7(9) | --- C7/E --- Fsus4 | -- F - -- D# D(b9) | - D -- N.C. --- |

・進行

| IVM7 --- | IVmM7 --- | IIIm7 - #Vdim - | VIm -- VI ---- |

| IIm7 – IIIm7 --- IVM7(9) | --- II7/#IV --- Vsus4 | -- V - -- IV III(b9) | - III -- N.C. --- |

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 4536と2345が基になっています。すぐに分かることですが、ノンダイアトニックコードがめちゃくちゃに多い! IVmM7、#Vdim、VI、II7/#IV、III(b9)、III と六種類も出てきます(#Vdim と III は機能的には似ているものの、ここでは明確に違う使われ方をしている)(ここの #Vdim は #Vdim7 のほうが適切かも? ということに上の図を作っているときにようやく気がつきました)。しかも #Vdim 以外はここでしか出てきません。『パレイド / 夏川椎菜』はこのCメロにこそあらゆる要素が集約されているなと個人的には思うわけですけれど、その理由の一つが「ここでノンダイアトニックが大量に使われている」ことです。構造が異なるとか何だとか以前の話として、ここだけ他のパートとは全く別の次元にいるみたいな感覚です。

※追記(20200621):「ノンダイアトニックとは何ぞや」ということについて少し触れておくと、とりあえず『普通じゃない』和音だと考えてくれればよいです。こいつを鳴らすことで『普通じゃない』ことによる様々な効果(疾走感、焦燥感、陰鬱感、浮遊感etc...)が得られます(得られる効果は使う和音と文脈に強く依存します)。このCメロではその『普通じゃない』が多く使われているということですね。

 まず前半、IVM7 – IVmM7 – IIIm7 – #Vdim – VIm – VI は、実はここまでに一度『Yes! Party Time!! / - 』という曲を引き合いに出して触れていたのですが、4536の派生形です。#Vdim は VIm へのパッシング、VIm から VI への動きは一時的な浮遊感の演出としてよく用いられます。

 後半 IIm – IIIm7 – IVM7(9) – II7/#IV – Vsus4 – V は2345の上昇形にパッシングとして II7/#IV を挟んだ形で、これ自体は頻出のパターンです。前半の終わりが VI というコードでしたが、それは後半の頭にある IIm7 のセカンダリドミナントになっていて(VI に 7th が乗っていないので厳密には異なるかも)、これによってノンダイアトニックコードを打ち鳴らした後も強烈な引力で次のパートへ進行することになります(強進行)。そこから上昇形で駆けあがっていくわけですが、ここで意識しておいてほしいのが「IVM7(9)」と「食い気味のリズム」の二つです。これについては後述しますが、とりあえず頭の片隅に置いておいてください。

 最後は Vsus4 – V という終止の流れから、しかし I へは向かわず、IV を経由してノンダイアトニックの III に落ちます。ここの歌詞、『パレイドは つづいてく』と曲名を回収している重要なパートだったりするんですが、コード進行の視点から捉えてみれば IV – III(b9) – III という決して終止はしない形、しかもノンダイアトニックであるところの III(b9) は不協和、続く III は VIm へ向かって進みたがるという傾向にあり、ここではそれらを途中で投げ捨ててしまうことで「まだまだ続いていきそうな感じ」を音楽的にも演出しているというわけです。これがめちゃくちゃに良い!!! 本当に良い!!!!! マジで!!!!!!!! この記事では折に触れて歌詞と楽曲との共鳴について語っていますが、中でも僕はここが一番好きです。

 一応 III7(b9) について触れておくと、III7 は IIIm7 の構成音であるところの5の音を半音上げた #5を構成音に持つ和音で、3からみた第9番音とは#4のことなので、したがってb9と表される音は4そのものです。なので III(b9) は結局3,#5,7,2,4を構成音に持つ和音のことになります。これはルートの3を消してやると構成音が#5,7,2,4、つまり #Vdim7 になるので III(b9) もかなりディミニッシュコードとしての側面が強いです。今回は7が欠けているものの、それでも3と4の衝突があるので不協和な感じは否めません。最後、メロディは多少解決するもののコードは解決せず、そんなCメロの後には「まだまだ続いていきそうな感じ」がやはり残ります。

 

 

・メロディ(ボーカル)

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 ボーカルのメロディラインです。語りたいことは山ほどあるわけですが、まずはいつものあれをやってみましょう。すると、

D(3,7)→D(3,7)→C(2,7)→C(2,5)→D#(4,6)→D(3,5)→

たえさがし めりーごーらんど ないふりをするほうが えにすすでいけのか

D(3,9)→C(2,7)→F(5,9)→C(2,1)→D(3,6)→C(2,5)→A#(1,5)→D#(4,b9)→D(3,1)

『ふつあいことをつて ぱれい つづいてく』

となります。これだけでもこのCメロがいかに異色の存在かということが一目でわかると思いますけれど、とりあえず順を追って見ていきましょう。

 まず D(3,7)→D(3,7)→C(2,7)、フレーズ頭から暴れまくっていますね。これらはそれぞれ IVM7、IVmM7、IIIm7 の7音目ですが、そもそも (*,7) は濁りを生みやすい音ですが、それを三つも並べ、このことは後述すると思いますが、さらにこれらの音はすべて同小節内で連続するように用いられています。(3,*) の高音は情感に訴えかける性質が極めて強いという話をサビのところで、(2,*) は傾性がそこそこ強いので早く次の場所へ行きたくなるという話をAメロのところでそれぞれしましたが、ここではその両方を同時にやっているというわけです(しかも連打で)。サビで爆発していた感情に再び火を点けようとしている感じですね、それも特大の。この火種がめちゃくちゃ良い伏線になってるんですよ、実は。

※追記(20200621):二回目、「IVmM7 上における3の連打は、構成音のb6と減五度になっているので傾性がより強まっている?」という指摘があり、完全に納得したのでここに追記しておきます(いわゆるトライトーン。昔は『悪魔の音程』なんて呼び方もされていたとかいなかったとかという強烈な不協和音)。

 C(2,7)→C(2,5) と続いた後、VIm7 上の第6音D#(4,6) が鳴らされます(『前に進んでいけのかな』)。SoundQuest の言葉では『m6シェル』ですね。(4,*) の音はそもそも傾性が非常に強いので何をせずとも3へ行きたくなるわけですが(上のメロディラインも実際そうなっている)、今回は下の和音が VIm7 で構成音に3(D)の音を含んでいるので、ここで3(D)と4(D#)とが互いに衝突し、結果、D#(4,6) の傾性は最早強いなんていう次元ではなくなっています。

 これも後述するかと思いますが、ちょうどこの D#(4,6) が鳴るタイミングでドラムスがクラッシュシンバルを鳴らし、そうしてここから先は『食い気味の上昇形』で駆けあがっていくという展開がなされていきます。つまり、初めの (*,7) 連打によって押し溜めた莫大なエネルギーをこの D#(4,6) で一気に起爆させ、その勢いのまま一気にクライマックスまで上りつめていく、という構図なわけです。めちゃくちゃ良い!!!!! D#(4,6) に続くのは D(3,5) です(『前に進んでいけるのか』)。(3,*) の情感と (*,5) の力強さが若干のロングトーンによって強調されていて、ここもとても良いですね。歌詞だと『前に進んでいけるのかな』と唄っていて、これまではずっと否定的な言葉ばかり吐いていた一人称が、ようやく少しだけ前向きな台詞を零すという場面です(『見ないふりをする方が』という前置きがついているので、100%前向きというわけでもない)。

 後半、D(3,9)→C(2,7)→F(5,9)→C(2,1)→D(3,6)→C(2,5)→D#(4,1)→D(3,1)。それぞれ順に『不釣合いをつて パレイ』の『』、『』、『』、『』、『レイ』、『』です。

 まずは D(3,9)、これは IIm7 の第9音として鳴っています。3(D)の音自体はCメロの頭から鳴らされていますが、ここでの3(D)は6(G)からの跳躍に (3,*) と (*,9) の性質による相乗効果も加えて、かなり突き刺さるような響きになっていますね。この時点で相当に良い

続く C(2,7) は IIIm7 の第7音です。これは『不釣り合い』の『』にあたりますが、短くスパッと切ってしまっているのがとても良いですね。こうすることで (2,*) の傾性による浮遊感と (*,7) の絶妙な切なさがかなり効果的に演出されているという気がします(ここを伸ばして歌うと本当にダサい)。

 次の F(5,9) は IVM7(9) の第9音です。この部分について話すためにこの記事を書いていたと言っても全く以て過言ではないんですが、この曲におけるボーカルの最高音はここです! これまでに「ボーカルは他の楽器隊が作っている5(F)の壁を越えられない」という話をくどくどとしてきましたけれど、このCメロではボーカルのメロディラインがついに5(F)へ触れるのです(しかも、ボーカルが5(F)を唄うのはここだけ)。ここがめちゃくちゃ良い!!!! 本当にこの話をするそれだけのために、この一行へ至るまでの一万七千字余りを書きました。今すぐに確かめてください、この””良さ””を。

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 そういうわけで、ここの5(F)は曲全体を俯瞰したときにとても重要な音になっているわけですが、この音を印象強い音たらしめている要因は他にもいくつか考えられます。まず1→2→5(A#→C→F)という跳躍によって辿りつく音であること。加えてスケール上の第5音なので力強く響くこと(跳躍とロングトーンによってそれが補強されている)(5への跳躍が良いという話はAメロのところでした)。IVM7(9) の第9音でもあること(避けようのない透明感がある)(夏川椎菜さんの裏声っぽい歌い方が、この透明感を補強しているような気もしている)。そして何より、これまでずっと5(F)の音が強調され続けていたこと。そんな諸々の上に「たった一度の最高音」という属性が加わって、一度しか鳴らないにも関わらず、この一曲を通して強く印象に残る音の一つになっているというわけです。良すぎませんか?

 次の C(2,1) は II7/#IV の第1音です。こちらは二つ前の C(2,7)(『不釣り合い言葉』)と違って引き延ばすように歌われていますね。今回は (*,1) の形なので伸ばしても濁りませんし、その後は1(A#)へ降りるのでこうすると2(C)の傾性を上手く利用できるという感じでしょうか。

 次の D(3,6) は Vsus4 の第6音です。V の上の第6音はだいたい第5音、つまり2へ着地するという印象を僕は勝手に持っていますが、今回は予想通りの動きをしてくれていますね。同時にスケールの第3音でもあるので、ここの『レイ』は若干の熱を帯びて聴こえます(もちろん、歌い方の問題もある)。

 次の C(2,5) は V の第5音です。Bメロ終わりの C(2,5) と同様に、こちらもかなり力強い響きで耳まで届くと思います。軽めのロングトーン(四分音符)で歌って、その後に『つづいてく』の『』が2(C)、『』が1(A#)でそれぞれ入り、2の傾性を若干伸ばした後に解決しています。ほんの一瞬ですが。

 最後の A#(1,5)→D#(4,b9)→D(3,1) (『つづいてく』)はそれぞれ IVの第5音、IV、III の第1音です。ここの1(A#)で直前に置かれていた2(C)の傾性が一瞬解決します。が、それも束の間、直後には完全四度上の4(D#)へ跳躍します。A#(1,5) は IV の第5音かつ主音なのでかなり真っ直ぐな力強さがあり、その勢いで D#(4,9#)まで跳躍しているという感じですね。跳躍先の4(D#)は傾性がかなり強く、これが進行のところで話していた「まだまだ続いていきそうな感じ」に繋がっていきます。また、この D#(4,b9) は III(b9) の第b9音です。このときベースはもう思いっきり3(D)の音を鳴らしているので、D#(4,b9) の気持ちとしては早く半音下へ行ってしまいたいという感じですね(和音がそもそも不協和なので、これもまた傾性が強いなんてレベルではない)。そして最後は傾性に従って半音下の D(3,1) へ着地。この D(3,1) が (*,1) になっているのも、かなりポイント高めだと個人的には思います。ストレートさというのであれば (*,1) が最もそれを的確に表現できるという認識を個人的には持っているので、インパクトに満ち満ちているこのCメロを締めくくる最後の一音としては、(*,1) の強さが適っているのかなという感じです。また最後にはベース、エレキギター、ピアノ、ボーカルの四者が揃いも揃って3(D)の音を一斉に鳴らすので、そのシンプルさと、また最後の解決しきらない感じも含めて「まだまだ続くんだ」って感じがして良いですよね。

 

 コードが切り替わるところにいる音の話ばかりしていましたが、メロディライン全体についても触れておきます。

 Aメロの四分音符と八分音符の繰り返し、Bメロの八分音符を用いた順次進行、サビの八分音符を用いた同音連打と順次進行、と来てCメロでは十六分音符が(ボーカルのメロディラインでは)初めて登場します。こうしてみるとそれぞれのパートの役割がはっきりと見えてきて、作曲が上手すぎではという気持ちにもなります。

 サビでも散々にやっていた IVM7(9) 上第7音の連打ですが、ここではそれをさらに上書きしていってる感じですね。あちらは八分音符で、今度は十六分音符が混じっているので。しかも二小節連続でそれをやった上で、次は傾性の強い2(C#)を連打します。その諸々を四小節目の D#(4,6)(『前に進んでいけのかな』)で爆発させるというのは先述の通りですね。

 ほとんどすべてを上のほうで語ってしまったので、これ以上語れることも然程残されていないわけですけれど、一つだけ触れておきたいのは、このCメロはとても劇的に聴こえるにも関わらず、その実たったの六音(G,A#,C,D,D#,F)しか使われていない、ということです。これはAメロで使われている音階数と同じで、Bメロとサビではもっと広い音域が使われていました。そのわずかな音数でもこれほどに景色が広がって聴こえるのは、たとえばノンダイアトニックコードの活躍だったり、どの和音にどの音をどうやって置くかの選択だったり、最高音5(F)の遅すぎる登場だったり、もちろん他にも色々とありますが(これは後述する)、これまでの展開において避けられ続けていた諸々が一斉に解放されるからなんじゃないかと思います。なので、このCメロこそが『パレイド / 夏川椎菜』という楽曲における盛大な「伏線回収」になっているのだと、個人的にはそう考えるわけです。歌詞でもCメロで『不釣り合いな言葉をつれて パレイドは つづいてく』と曲名を回収していますし。こういった共鳴があると本当に楽しい気持ちになります。

 

 

・その他

 先に言っておくと、このCメロ、実はこれまでのパートには必ず存在していた「5(F)の壁」が存在しません。これが上で触れていた「Cメロが特異である理由」の一つです。これまで無意識に刷り込まれていた5(F)の音がCメロでは完全に消えて、その上でボーカルのメロディが初めて5(F)へ触れるのです。これ、めちゃくちゃ良くないですか??? 音楽という一つの枠組みをすっかり飛び越えて、ある種の物語としてこの曲は作られているような気がし、そういったことも含めて自分はこの曲がとてもお気に入りです。

 

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 ピアノ。Cメロは全体的にインストゥルメントが薄くて、これの他にはパッド、ギター、ベース、ハモリくらいしか入っていません(聞きとれていないだけかもしれない)。八分音符で刻むことによって全体に疾走感が出ています(間奏とサビのピアノも恐らく八分刻み)。

 四小節目でボーカルと同じフレーズを(多分)なぞって、以降は食い気味のリズムに沿うように左右で二音ずつ鳴らされています。八小節目、これもちゃんと聞きとれているのか怪しいのでアレですが、ピアノは左手で III の構成音のうち7(A)と3(D)を鳴らしていて、右手では4(D#)→3(D)+#5(F#)のムーブをしているような気がします(多分)。右手側は音域がボーカルに近いので、4(D#)と衝突する 3(D)は一旦避けるということですね。

 

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 パッド、ギター、ベース。パッドは相変わらずトップノートくらいしか合わせていません。八小節目、ボーカルが『つづいてく』の4→3→3を唄うタイミングで、中域で鳴っているギターは4→3→3の動きを、低域で鳴っているベースは3→3→3の動きをそれぞれしています。ルートがぶれると元も子もないのでベースは3(D)に固定、一方ギター(あるいはピアノの右手側)はボーカルのメロディラインに沿うように4(D#)から下降、という具合。

 ドラムスについて触れておくと、一小節目から三小節目にかけて、メロディ(ボーカル)のところでは「エネルギーを溜める」みたいに話していたパートでは、これまで通りに単調なリズムを刻んでいます。四小節目、起爆剤であるところの D#(4,6) が鳴るタイミングでクラッシュシンバル、そしてタム回しが入り、以降は八分音符一個分だけ前に出るという、これまでには一度も出てこなかった形のリズムに変わります。これもまた「Cメロが特異である理由」の一つです。キメのリズムのところ、キックと一緒に鳴らされているロータム(フロアタム?)の丸い低音が心地良いです。Cメロにおける陰のキーパーソンは間違いなくこのリズム隊。

 

 

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〇最後に

 ここまででもう21,000字を越えています。恐ろしい。あまりに長すぎだろうが。

 自分の場合、『パレイド / 夏川椎菜』を初めて聴いた瞬間からこのCメロのことがめちゃくちゃ好きになっていて、自分の周りにもそういった知り合いは数名いたような気がするんですが、これは一般的にはどうなんでしょう?

 さて、今回「自分はどうしてこの曲を『良い』と感じるのか」を徹底的に突き止めてやりたいというモチベーションがあった、という話を初めにしましたけれど、その目標は現時点では概ね達成できたかな、という感じです。といっても理論のことはまだまだ何も知らないという身なので、見落としている要素がまだまだ多分にあると思われ(たとえばハモリが全く分からない)、もう少し勉強して、そうしたらまたこの曲に戻ってきたいな~、という気持ちです、いまは。

 

 以上です。ここまで読んでくれた人(いるのか?)に向かって今更言うようなことでもないと思いますけれど、『パレイド / 夏川椎菜』を是非とも聴いてください。とても良い曲なので。

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