コード進行について色々8


 拙作『夕景、紛う、白昼夢』のコード進行について解説、というか「こうこうこういった意図に基づいてこのような進行にしました」という話を、自分自身の整理も兼ねて書いてみようと思います。

 ↓楽曲

open.spotify.com

 

 前回の記事はこちらです。

kazuha1221.hatenablog.com

 

 この楽曲は最初から最後までずっと B major ( G# minor ) です。

 また、以下で何の断りもなしに「ド」や「ファ」などと書いている場合、それは移動ドでの音階を表すこととします。この楽曲の場合、絶対音でのシ、ド♯、レ♯、ミ、ファ♯、ソ♯、ラ♯を順にド、レ、ミ、ファ、ソ、ラ、シ(移動ド)と呼んでいます。

 説明が重複する部分(たとえば、繰り返し登場する間奏部分など)については、初回以降の登場では説明を省略しています。

 

 


----------------------------------------

○ イントロ(「八月、水面に残響~」)

・chord
|| C#m7 --- | ---- | ---- | ---- |
|| G#m7 --- | ---- | ---- | ---- |
|| C#m7 --- | ---- | ---- | ---- |
|| G#m7 --- | ---- | ---- | ---- |

・chord(degree)
|| IIm7 --- | ---- | ---- | ---- |
|| VIm7 --- | ---- | ---- | ---- |
|| IIm7 --- | ---- | ---- | ---- |
|| VIm7 --- | ---- | ---- | ---- |

 

 イントロ部分、この楽曲で一番最初に生成されたパートです。このパートは 46 進行(と勝手に自分が呼んでいる) IVM7 - VIm7 - IVM7 - VIm7 を念頭に置いていて、これはたとえば以下の楽曲で聴くことができます。

ジョーカーに宜しく / PENGUIN RESEARCH

 B メロ( 0:37- )

open.spotify.com

・Sing My Pleasure / ヴィヴィ (Vo.八木海莉)

イントロ+Aメロ( 0:05- )

open.spotify.com

・第三の心臓 / はるまきごはん

イントロ+Aメロ(冒頭)

open.spotify.com

 IVM7 と VIm7 とは構成音が三つ被っています(ラ、ド、ミ)。というので、展開感があんまりないコード進行なのかなと思います。個人的には、曖昧な浮遊感のあるコード進行だなとも思っています。曲想的にあまり激しい展開をしたくないパート、たとえば A メロや間奏部分なんかでの用例が多いかなという気がします。A メロとサビが強めに展開するので繋ぎとしての B メロではこの進行を組み込んで一旦落ち着かせる……みたいなのもありますね。

 ということを踏まえつつ、今回は IVM7 の部分を IIm7 に置き換えて使っています。IVM7 と IIm7 とは構成音が三つ共通しているので、自分はこれを 46 進行の派生として認識しています。モチベーションとして、イントロは曲の印象を決定する部分なので IVM7 の明暗曖昧な感じよりも露骨に暗い IIm7 の色が欲しかった、というのがあります。IIm7 - VIm7 - IIm7 - VIm7 で先述のあまり展開しない空気感(この曲は B メロとサビがかなり激しめにコードを回すので、全体のバランスをとるという意図です)を踏まえつつ、マイナーを連続で鳴らすことで曲全体の短調感を意識させられたらいいな~という気持ちでした。

 

----------------------------------------

○ 間奏

・chord
|| EM7 --- | ---- | ---- | ---- |
|| G#m7 --- | ---- | ---- | G#m7 - Gm7 - F#m7 - Em7 - |

・chord(degree)
|| IVM7 --- | ---- | ---- | ---- |
|| VIm7 --- | ---- | ---- | VIm7 - #Vm7 - Vm7 - IVm7 - |

 

 イントロに引き続いての間奏。ここのコード進行は、「イントロから連続して入るパートである」+「この後くるサビの直後にも繰り返し組み込む想定だった」+「サビはコードを多めに回す」というところから、イントロ同様に 46 進行を起用しています。イントロでは IVM7 を IIm7 に読み替えて使っていましたが、こちらでは IVM7 のままで鳴らしています。理由としては「イントロ(とこの後くる A メロ)との差別化」+「ギターリフを映えさせたい」の二つです。後者について、間奏冒頭のギターリフはラとミを交互に鳴らすシンプルなものですが、IIm だとこれが 5th, 9th になるのに対して、IVM7 だと 3rd, M7th になります。自分は 3rd と M7th の音が大好きなので、ここでは IIm7 よりも IVM7 のほうが相応しいと判断しました。ざっくり話すと、3rd, M7th の音に対する自分の認識はそれぞれ「哀愁、情緒」と「切ない、カッコいい」で( M7th に対する印象は IV 限定かも)、それがこのパートだったりこの楽曲だったりで表現したいことに最も近かった、という話です。詳細は soundquest を参照してください。

soundquest.jp

soundquest.jp

 後半の VIm7 - #Vm7 - Vm7 - IVm7 は和音の平行移動による下降です。VIm - #Vm7 - Vm7 - I7 なんかはアニメポップスでよくみると思いますが、曲想的に I は使いたくないのでここを別の何かに置き換える必要があるなとなり、次にくる A メロの IIm7 との兼ね合いや平行移動の流れ等も考え、最終的に IVm7 が選ばれました。

 

----------------------------------------

○ 1B メロ(「見抜かれないように~」)

・chord
|| Fm7b5 --- | F#/E -- Em6 | -- D#aug7 - D#7/G --- | G#7sus4(9) --- |
|| Em6/G - G#m/F# - | C#/F - F#/E - | B --- | ---- |

・chord(degree)
|| #IVm7b5 --- | V/IV -- IVm6 | -- IIIaug7 - III7/#V --- | VI7sus4(9) --- |
|| IVm6/bVI - VIm/V - | II/#IV - V/IV - | I --- | ---- |

 

 B メロ部分。頭から順に説明します。

 まず最初の四小節ですが、ここは 4536 進行(いわゆる王道進行)の派生です。4536 進行、つまり IV - V - IIIm - VIm ですが、この変化形として頻出のもの、かつ今回の記事に関連のあるものを以下にいくつか挙げます。用例については(紹介していないものもありますが)以下の記事を参照してください。

コード進行について色々7 - 感情墓地

 1:三小節目を III に置き換えた進行、IV - V - III - VIm。これが一番出てきます。こうすると通常のスケールには存在しないソ♯の音が登場し、こいつがラへの傾性を持つので、四小節目での VIm への解決がより気持ち良くなるという話。これのさらに派生として IV - V - III/#V - VIm もあります。こうするとベースラインがファ→ソ→ソ♯→ラと順次で動くのでさらに気持ちがいいという話です。

 2:二小節目を V - IV に置き換えた進行、IV - [ V - IV ] - IIIm - VIm。この場合、二小節目の IV は経過音的な用法で、こうするとベースラインがファ→ソと動いた後、ミへ行く前にファを経由するので滑らかに聴こえて嬉しい、という気持ちです。

 3:同じく二小節目を V/IV に置き換えた進行、IV - V/IV - IIIm - VIm。今度はベースラインがファから動かず、これについては通常の 4536 進行よりも展開感を弱めたバージョンだという認識を自分はしています。恐らくこの世に存在する様々なアーティストたちがこの進行を使っていますが、自分は BUMP OF CHICKEN から学びました。

 4:一小節目を #IVm7b5、二小節目を IVmM7 にそれぞれ置き換えた進行、#IVm7b5 - IVmM7 - IIIm - VIm。自分は田中秀和の楽曲で学びました(氏の楽曲だと、四小節目は大抵 VI7 ですが)。#IVm7b5 は IVM7 の構成音であるファを半音 "持ち上げた" 和音で、構成音はファ♯、ラ、ド、ミです。ファ♯、ラ、ドが dim を形成しているということも関係あったりするかもしれませんが、自分は "持ち上げた" のイメージ通りに切迫感のある和音だなと思っています。余談ですが、この上で鳴らすメロとしてはラとミがかなり好きです。

 5:四小節目を VI7 に置き換えた進行、IV - V - IIIm - VI7。これは通常 VIm へいくところを VI7 というメジャーコードへ進行することで、想定外の明るさを聴き手に与えるという効果が期待されたりされなかったりするみたいです。

 以上を踏まえて、B メロ冒頭四小節について説明します。

|| #IVm7b5 --- | V/IV -- IVm6 | -- IIIaug7 - III7/#V --- | VI7sus4(9) --- |

 まず原型としてあったのは IV - V - IIIm - VIm ですが、二小節目を弄って

|| IV --- | V - IV - | IIIm --- | VIm --- |

にします。次に一小節目を #IVm7b5 へ置き換えます。B メロの印象として、この和音の持つ切迫感が欲しかったからです。このとき、次の和音のルートはソ、シへ行くこともありますが、ファへ進んだ場合、半音下降の効果も相まってとても自然に聴こえる(気がする)のでそうします。

|| #IVm7b5 --- | V/IV - IV - | IIIm --- | VIm --- |

 次に三小節目へ III7 を組み込みます。この和音が持つ緊張感が欲しかったからです。このとき、ベースの流れとしてはファ♯→ファと来ているので、このままミへと半音下降したいところです。一方でソ♯→ラの動きもほしく、なので三小節目は III7 - III7/#V に置き換えます。

|| #IVm7b5 --- | V/IV - IV - | III7 - III7/#V - | VIm --- |

 二小節目と三小節目の接続ですが、ここでコードチェンジの雰囲気をそれほど出したくなかったので、前後の和音の構成音に共通音ができるように少しだけ弄ります。IIIm を III へ変更した理由であるソ♯を活かしたかったので、IV(ファ、ラ、ド)を IVm6(ファ、ラ♭、ド、レ)へ置き換えます。一方でド→シの動きはかなり露骨に雰囲気を変えてしまうような気がしたので、III7(ミ、ソ♯、シ、レ)を IIIaug7(ミ、ソ♯、ド、レ)へ置き換えます。これで IVm6(ファ、ラ♭、ド、レ)から IIIaug7(ミ、ソ♯、ド、レ)への進行となって、二和音間での変化はファ→ミの半音下降だけになりました。これはベースの動きと同じなので、ベース以外の楽器隊はこの部分ではソ♯、ド、レだけを鳴らしておけば、コードの変化感を最小限に抑えることができます(実際、この部分のピアノはソ♯+ド+レの三和音をずっと鳴らしています)。

|| #IVm7b5 --- | V/IV - IVm6 - | IIIaug7 - III7/#V - | VIm --- |

 最後に、四小節目を VI7sus4(9) へ置き換えます。一、二、三小節目では変なことをしていますが、ベース自体はファ♯→ファ→ミで半音下降しているだけだったり、コードも共通音を作って展開感を弱めていたりとあれだったので、III7 の緊張感から明ける四小節目は、B メロ後半への切り替わりということも踏まえ、ある種のフックにしたいところでした。なので弄りたいのですが、VI へ置き換えてしまうと不必要な(正しくは「過剰な」)明るさが生まれてしまって相応しくないという話があり、そこで第三音をさらに持ち上げて VIsus4 にします。sus4 は調性が不安定で云々といったことをよく言われますが、そのメジャーでもマイナーでもない雰囲気がフックとしてはちょうどいいという気持ちでの起用です。ただ、通常の sus4 では面白み(インパクト)に欠けるので 7th, 9th をテンションして VI7sus4(9) として組み込んでいます。特に 9th としてシの音を組み込むことで不鮮明な感じが増すな~と思います。

|| #IVm7b5 --- | V/IV - IVm6 - | IIIaug7 - III7/#V - | VI7sus4(9) --- |

 これで B メロ前半の進行になりました。

 後半について。

|| IVm6/bVI - VIm/V - | II/#IV - V/IV - | I --- | ---- |

 直前の和音が VI7sus4(9)、特にルート音がラだったので、ラ♭から順に二拍おきで半音下降していくと展開として面白いかなと思い、そのようにしました。なので気持ちとしては VIm からの半音下降です。VIm からの半音下降には色んなパターン、というか組み合わせがあって、スタートの一小節目は大抵 VIm ですが、二小節目以降は色んな和音を入れることができます。

二小節目: III7/#V、Iaug/#V
三小節目:I/V、VIm/V、V
四小節目:II7/#IV、#IVm7b5

 今回は、III7 の緊張感をもう使いたくない(前半で使ったので)というのと、Iaug/#V は用途がそもそも合わない(これは VIm7 - Iaug/#V - VIm/V - #IVm7b5 という流れでよく出てきて、こうするとすべての和音でドとミを共通音としつつ、ベースを半音下降させていくことができます)ということから別の和音を当てようという気持ちでした。半音下降のためにはソ♯、またはラ♭の音が組み込まれていると嬉しいというので、下降開始の和音としては IVm に白羽の矢が立つこととなりました。6th がついているのは自分の癖で、自分は IVm、IVmM7、IVm6 の中だと IVm6 が音として最も好みなのでそうしています。

 残りは自分の使いたい音に合わせて和音を選択していきます。ラの音を使いたかった(短調の主音を鳴らしておきたかった)ので I/V や V ではなく VIm/V を、II7 の明るさ的な裏切り要素(意外性)がほしかったので #IVm7b5 ではなく II7/#IV を、それぞれ起用しています。通常、ラから半音下降を始めるとファ♯で四つ分が終了しますが、今回はラ♭から始めたので四つ目のベースはファになります。そのことを踏まえつつここに組み込む和音を探すのですが、三小節目、四小節目ではサビへの溜めということで I へ着地しておきたかったので、I への解決欲求を持つ V7 を起用して V/IV としています。

 という感じのプロセスを経て、IVm6/bVI - VIm/V - II/#IV - V/IV - I という進行になりました。

 

----------------------------------------

○ サビ(「夕凪いだ空~」)

・chord
|| EM7(9,#11) --- | E6(9,#11) --- | EmM7(13) --- | F# - E6 - |
|| D#m7 --- | F# - D#/G - | G#sus4 - F# - | Fm7b5 - G#/C - |
|| C#m7 --- | F# - C#m/F - | A#m - D#7 - | G#7sus4 --- - Fm7b5 -- | 
|| Em6 --- | D#/G --- |

・chord(degree)
|| IVM7(9,#11) --- | IV6(9,#11) --- | IVmM7(13) --- | V - IV6 - |
|| IIIm7 --- | V - III/#V - | VIsus4 - V - | #IVm7b5 - VI/#I - |
|| IIm7 --- | V - IIm/IV - | VIIm - III7 - | VI7sus4 --- - #IVm7b5 -- | 
|| IVm6 --- | III/#V --- |

 

 サビ。ここもぱっと見だとよくわからないかもしれませんが、基本的には 4536 の派生という認識です。

 まず前半について。

|| IVM7(9,#11) --- | IV6(9,#11) --- | IVmM7(13) --- | V - IV6 - |
|| IIIm7 --- | V - III/#V - | VIsus4 - V - | #IVm7b5 - VI/#I - |

 一小節目から八小節目にかけてでひとまとまりの 4536 という認識で、原型は

|| IV --- | IV --- | IV --- | V --- |
|| IIIm --- | IIIm --- | VIm --- | VIm --- |

です。これを B メロで紹介した変化形に基づいて、IV を IVm にしたり、V を V - IV の下降形にしたり、IIIm - VIm の間に III7/#V を挟んで緊張感を高めたりしたのが上の進行です(七、八小節目については後述)。

 前半の IV に乗っかっている M7th(ミ), 9th(ソ), #11th(シ), 13th(レ)は、とにかく長調的な IV の雰囲気をなるだけ消したいという意図でつけています(特に #11th )。バッキングギターが素直に IV を弾いている一方で、ピアノはミ+ソ+シ、ソ+シ+レ、ラ+レ+ミの三和音を弾いたりしていて、シンプルな IV の枠に収めないアレンジをしたいな~という気持ちでテンションを決めていました。

 七、八小節目は VIm(楽曲中では VIsus4 になっていますが)からの下降の気持ちで作っています。下降といっても半音下降ではありません。VIm の下降は色々とあって、たとえば VIm - IIIm/V - IV - I/III - IIm - VIm/I - VII - III7。自分は勝手にマイナーカノンと呼んでいますが、有名なやつだと『君をのせて / 井上あずみ』の A メロとかですね。

open.spotify.com

あとは VIm - V - IV - I とか。用例は山ほどあると思いますが、いまぱっと思いついたのが『final phase / fripSide』の A メロだったので貼っておきます。

open.spotify.com

気持ち的には二つ目の雰囲気で使っています。

 まず原型がこれ。

| VIsus4 - V - | IV - I - |

IV の部分でメロディがラに着地するんですが、ここは IV の上のラよりも #IVm7b5 の上のラのほうが(切実な感じがあって)合っていると感じたので #IVm7b5 に。すると後ろの I も必然的に変えなきゃな~となり、こういうときはだいたい IV へ進行するのですが、そのさらに後に来る(サビ九小節目の)和音が IIm なので IV はちょっと微妙かなとなりました。そこで、ベースがファ♯にあることからド♯へ進むと面白いなと思い(ファ→ドの動きと、やっていること自体は同じ)、さらにこうすると IIm(ルートがレ)への動きも自然になるということも加わって採用。そこでド♯の上に置く和音を探すわけですが、IIm へ進行したいので VI が適役と判断され(強進行)、というので VI/#I。

| VIsus4 - V - | #IVm7b5 - VI/#I - |

 以上で、この下降形になりました。

 サビ後半。

|| IIm7 --- | V - IIm/IV - | VIIm - III7 - | VI7sus4 --- - #IVm7b5 -- | 
|| IVm6 --- | III/#V --- |

 前半の四小節は 4536 の派生です。なので原型は

|| IV --- | V --- | IIIm --- | VIm --- |

です。まず、一小節目頭のメロディがファなんですが、IV の上のファよりは IIm の上のファのほうが好き、というか自分は IIm の上のファがめちゃくちゃに好きなので( IIm の上のファは 3rd。情緒、哀愁のバイブス)、ここは問答無用で IIm7 にします。自分はこれを 2536 進行と呼んでいますが、一応は 4536 の派生という認識をしています。

|| IIm7 --- | V --- | IIIm --- | VIm --- |

 次に B メロのところで紹介した諸々に基づいて二小節目の V を V - IV へ、三小節目の IIIm を III7 へ、四小節目の VIm を VI7sus4 へそれぞれ置き換えます。

|| IIm7 --- | V - IV - | III7 --- | VI7sus4 --- |

 二小節目の IV ですが、ここはド(長調の主音)をメインでは鳴らしたくなかったのと、自分がレの音が好きという理由から IV6 から 5th(ド)を omit してさらにベースをファに転回した形、 IIm/IV に置き換えます。

|| IIm7 --- | V - IIm/IV - | III7 --- | VI7sus4 --- |

 また、三小節目について、当楽曲のいたるところでソ→ファ→ミでベースラインを下ろしつつ、ミの部分では III7 を鳴らして VI 系統へ進行する……という流れを擦りまくっているのと、ここはメロディ的にもかなりフックにしたい(ラスサビだとここで最高音が来る)ところだったので、もう少しインパクトが欲しいなと思いました。そこで素直には III7 へ進行せず、一度 VIIm を経由することで VIIm - III - VIm の二連強進行の形を作り、全体の勢いを演出しようという発想です。これ自体は VIIm - III7 - VIm7 というテンプレがあって、それに乗っかかった形です。この進行を使っている曲としては、無限に思いつきますが、一番有名なのだと『 Lemon / 米津玄師』ですかね(サビの「苦いレモンの匂い」のところです)。

open.spotify.com

 また、この場合 VII の形には VIIm7b5 か VIIm(7) かの選択があって、要するにファを使うのかファ♯を使うのかということですが、この場合はファ♯を含む和音のほうが適役と判断したので、VIIm を使っています。

|| IIm7 --- | V - IIm/IV - | VIIm - III7 - | VI7sus4 --- |

 この後、五小節目で IVm6、特に IV 系統の和音へ進行するので VI7sus4 の直後に #IVm7b5 を挟み込んで、ベースラインを滑らかにしています。ここでは II7/#IV との選択があります。#IVm7b5(ファ♯、ラ、ド、ミ)はだいたい II7/#IV(ファ♯、ラ、ド、レ)の類似で、VIm7 → II7 はドミナントモーションで自然に動くので、VIm7 → #IVm7b5 もだいたいそうという話ですね。VIm7 と #IVm7b5 は構成音が三つ被っているので、II7 ほどの劇的な進行感はなく、劇的な進行感が欲しいわけではなく単にべ-スラインを滑らかにしたかっただけなので、ここでは #IVm7b5 を使っています。

|| IIm7 --- | V - IIm/IV - | VIIm - III7 - | VI7sus4 - #IVm7b5 - |

 というので、上の進行になりました。

|| IVm6 --- | III/#V --- |

 最後のここについては  IV - III の動きを念頭に置いています。III7 の推進力を残したまま間奏へ雪崩れ込みたいという気持ちで、最後は III 。直前の IV は、IV そのものではなく IVm の物悲しさがほしいという気持ちと、いつも通りのレの音が好きという理由から IVm6 になっています。

 

----------------------------------------

○ 2A メロ(「八月の残光~」)

・chord
(6/8)|| C#m7 -- | --- | --- | --- |
|| G#m7(9) -- | --- | A#m7b5 -- | D#7 -- |
(2/4)|| Cdim - |
(4/4)|| C#m7 --- | F#7 --- | D# --- | G#m --- |
|| A#m7b5 --- | D# --- | 

・chord(degree)
(6/8)|| IIm7 -- | --- | --- | --- |
|| VIm7(9) -- | --- | VIIm7b5 -- | III7 -- |
(2/4)|| #Idim - |
(4/4)|| IIm7 --- | V7 --- | III --- | VIm --- |
|| VIIm7b5 --- | III --- | 

 

 前半はイントロ部分とだいたい同じです。VIm7 に 9th(シ)をテンションしていますが、これはこれまでにも説明したとおり、シンプルな和音の枠から少しはみ出すという気持ちで乗せてあるテンションです。III7 - #Idim の部分は気持ち的には #Vdim - #Idim で、ソ♯→ド♯の強進行と同じ動きを作りつつ、それを dim コードでやっているという話です。また、この #Idim は直後にくる IIm7 へのパッシングでもあります。

 後半部分。
|| IIm7 --- | V7 --- | III --- | VIm --- |
|| VIIm7b5 --- | III --- | 

 まず、前半は4536 の派生であるところの 2536 進行です。後半は、先にも述べた通り、VIIm から III へ進行するやつです。ここの VIIm にファ♯の音は不要だったので、通常通りにファを用いる VIIm7b5 を起用しています。

 冒頭の IIm7 - V7 について、歌メロがファを連打するフレーズで、これも先述の通り、自分は IIm の上で鳴るファがとても好きなので、ここは問答無用で IIm7 にします。その流れを汲んで、V も V7 として演奏しています。V の 7th は鳴らしすぎると不協和になりがち(ファが傾性音だし)という印象ですが、ここではファに特有の不安定さがめちゃくちゃ欲しかったので、ここぞとばかりに鳴らしまくりたく、というので V7 を起用しています。

 

----------------------------------------

○ 2B メロ(「太陽を夜が~」)

・chord
|| Fm7b5 --- | F# --- | D#m --- | G#sus4 --- |
|| A#m7b5 --- | D# --- | G#7sus4 --- | Fm7b5 --- |
|| C#m7 --- | F# --- | D#/G --- | Adim7 --- |
|| Fm7b5 --- | ---- | A#m --- | D# --- |

・chord(degree)
|| #IVm7b5 --- | V --- | IIIm --- | VIsus4 --- |
|| VIIm7b5 --- | III --- | VI7sus4 --- | #IVm7b5 --- |
|| IIm7 --- | V --- | III/#V --- | #VIdim7 --- |
|| #IVm7b5 --- | ---- | VIIm --- | III --- |

 

 まず前半。これは前から順に 4536 の派生、7-3 の動き、6 - 4# の動きで説明できます。後半について。

|| IIm7 --- | V --- | III/#V --- | #VIdim7 --- |

 これも原型は 4536 で、つまり元々はこうです。

|| IV --- | V --- | IIIm --- | VIm --- |

 一小節目、IV へ入る部分のメロがファを叩いているので、まずここを問答無用で IIm7 へ置き換えます。また、三小節目は III の緊張感(ソ♯の傾性)がほしかったので、そこも置き換えます。ついでに転回して III/#V にしてベースラインにソ→ソ♯という半音上昇の形を作ることで、次の和音への期待感をブースト。

|| IIm7 --- | V --- | III/#V --- | VIm --- |

 最後に四小節目、ここを #VIdim7 に置き換えます。「なんで?」と思われそうですが、ちゃんと説明します。この部分は、まず歌メロ側の要求が先行していました。というのも、どうしても歌メロでド♯の音を使いたかったんです。なので、それに従って和音も変更しなくてはならず、そこで最初に組んだのは次のような形でした。

|| IIm7 --- | V --- | III/#V --- | VI --- |

つまり、VIm(ラ、ド、ミ)を単に VI(ラ、ド♯、ミ)へ変更するという解決法。これ自体には別に何の問題もないんですが、ただ曲想的にちょっとよろしくなくて、ここまで短調らしさを前面に押し出し続けていたのに、ここにきて VI(基本的には「明るい」というラベリングでいい)を鳴らす、しかも経過音的にではなく露骨に(メロディが VIm と VI の差異である 3rd の音を思い切り叩くという意味でも)鳴らすというのは、曲全体の空気感を壊しかねないなと思い。そこで回避策を考えなくてはならず、というので #VIdim7 が登場します。#VIdim7 の構成音はラ♯、ド♯、ミ、ソで、VI7(ラ、ド♯、ミ、ソ)のルート音を半音上げたものになっています。メロディでド♯を使いたいという要求はこれでクリア。あとは和音自体の印象や前後の和音との接続関係ですが、dim のダーク感は楽曲の雰囲気にかなりマッチしており、また #VIdim7 は並び替えれば #Idim7 と同じなので、次にくる和音である #IVm7b5 との接続も、ド♯→ファ♯の強進行形を作れることでクリア。直前の III/#V からの接続については、ソ→ソ♯ときたベースラインが、ラへ解決すると見せかけて半音上のラ♯へ到達するという裏切り、および本来よりも半音高いということによる(?)浮遊感(?)が曲想的にも歌詞的にもめちゃくちゃちょうどいいと思ったので、というので #VIdim7 が起用される運びとなりました。

 実を言うとこの部分が、楽曲で表現したかったことを最も的確に出力できたっと感じているという意味で、曲全体でみてもめちゃくちゃお気に入りのポイントだったりします。

|| #IVm7b5 --- | ---- | VIIm --- | III --- |

 最後のこの部分については、サビ終わりでも使っていた IV - III を念頭に置いています。通常の IV よりも #IVm7b5 のほうが緊張感が増すという理由で、IV を #IVm7b5 へ置き換えます。また、素直には進行せずちょっとした意外性を入れたいというので、間に VIIm を挟み VIIm - III の強進行形を作っています。

 

----------------------------------------

○ ギターソロ

・chord
|| EM7(9,#11) --- | E6(9,#11) --- | EmM7(13) --- | F# - E6 - |
|| D#m7 --- | F# - D#/G - | G#sus4 - F# - | Fm7b5 - G#/F - |
|| C#m7 --- | F# - C#m/E - | A#m - D#7 - | G#7sus4 --- - Fm7b5 -- | 
|| C#m --- | Ddim --- | F# --- | G#sus4 - G#7/C - |

・chord(degree)
|| IVM7(9,#11) --- | IV6(9,#11) --- | IVmM7(13) --- | V - IV6 - |
|| IIIm7 --- | V - III/#V - | VIsus4 - V - | #IVm7b5 - VI/#IV - |
|| IIm7 --- | V - IIm/IV - | VIIm - III7 - | VI7sus4 --- - #IVm7b5 -- | 
|| IIm --- | #IIdim --- | V --- | VIsus4 - VI7/#I - |

 

 ポップスあるあるであるところの、サビのフレーズをちょっとなぞるギターソロ、をやっています。というので、コードもサビとほとんど同じです。異なるのは、最後、次のパートへの繋ぎとなる部分ですね。

|| IIm --- | #IIdim --- | V --- | VIsus4 - VI7/#I - |

 ここはギターソロでレ→レ♯→ミの動きをやりたかったので、それにあわせてコードを IIm - #IIdim にしています。ところでこういうときはだいたい IIIm, III など III 系統へ進行すると思うのですが、III の雰囲気を出すにはちょっと早いなと思ったのと、リードギターがミへ行くのと同時にピアノとベースもミへ行くとちょっと愚直すぎるかなと思ったので、変化球として V へ進行しています。その後はいつも通りに VIsus4 を鳴らして、次のパートの頭の和音である IIm7 へ自然に繋がるように VI7/#I を置いて、ド♯→レのベ-スラインを作っています。

 

----------------------------------------

○ Cメロ(「夕景、紛う~」)

・chord
|| C#m7 --- | F#7 --- | D# --- | G#m --- |
|| A#m7b5 --- | D#7 --- | G#m7 - F#m7 - | B7 --- |    
|| Fm7b5 --- | F# --- | D#m7 --- | Bm6/D --- |
|| C#m7 --- | Ddim7 --- | A#m7 --- | ---- |
|| D#sus4 --- | ---- |

・chord(degree)
|| IIm7 --- | V7 --- | III --- | VIm --- |
|| VIIm7b5 --- | III7 --- | VIm7 - Vm7 - | I7 --- |    
|| #IVm7b5 --- | V --- | IIIm7 --- | Im6/bIII --- |
|| IIm7 --- | #IIdim7 --- | VIIm7 --- | ---- |
|| IIIsus4 --- | ---- |

 

 前半は 2A メロとだいたい同じです。最後の VIm7 - Vm7 - I7 は自分がよく使う(自分に限らず、世の中の多くのアーティストが使っている)和音の流れで、「やっと使える!!」みたく切り札をきるという気持ちで組み込みました。これもフックの一つです。

 後半について。

|| #IVm7b5 --- | V --- | IIIm7 --- | Im6/bIII --- |
|| IIm7 --- | #IIdim7 --- | VIIm7 --- | ---- |
|| IIIsus4 --- | ---- |

 こちらは B メロの変化形です。

|| #IVm7b5 --- | V --- | IIIm7 --- | Im6/bIII --- |

 ここは 4536 の派生です。まず、一小節目の #IVm7b5 が IV の置き換えなのはいいとして、四小節目。この Im6/bIII は前後の IIIm7, IIm7 を繋ぐ目的で置いていて、ベースラインはミ→ミ♭→レと半音で下降します。B メロ通りに VI 系統の和音を置いてもよかったのですが、同じことをするのは芸がないかなと思い、ちょっとだけ捻った展開を作っています。

|| IIm7 --- | #IIdim7 --- | VIIm7 --- | ---- |
|| IIIsus4 --- | ---- |

 IIm7 - #IIdim については上昇感、というか緊張感の演出です。そのまま III へいくとちょっと早いので、VIIm7 を間に挟むことで展開を先延ばしにしています。#IIdim → VIIm については、#IIdim の中にファ♯が隠れているので、うまくやるとファ♯→シの強進行形が作れるので問題なく接続できるかなと思いました。

 

----------------------------------------

○ ラスサビ最後(「わたしの心を~」)

・chord
|| Em6 --- | D#7 --- | G#m7 --- | F#7 --- - Fm7b5 -- |
|| Em6 --- | D#7 --- |

・chord(degree)
|| IVm6 --- | III7 --- | VIm7 --- | V7 --- - #IVm7b5 -- |
|| IVm6 --- | III7 --- |

 

 偽終止というよりは展開の延長です。同じフレーズを繰り返したいときにコードをどうするかみたいな話ですが、VIm や #IVm7b5 を使っていい感じに元の和音まで戻してやれば、フレーズをループさせることができます。ここは気持ち的には 4365 進行ですね。なので原型はこうです。

|| IV --- | III --- | VIm --- | V --- |

これに自分好みのテンションを足して、最後に #IVm7b5 をパッシング的に挟んだものが上の進行です。

 

----------------------------------------

 以上でおしまいです。ここまでちゃんと読んだ人、いたらマジですごいな。おつかれさまでした+ありがとうございました。

 当楽曲が収録されている『 lycofos / MIRINN 』は Bandcamp 等で購入可能ですので、よければ是非(宣伝)。

mirinn.bandcamp.com