コード進行について色々7

 

 およそ一年ぶりにコード進行の話を書くかという気持ちになったので書きます。それに伴って去年の自分が書いた諸々を読み返していたのですけれど、理解が相当に雑というか、いまだって十分な理解をもっているとは思えませんが、流石に一年以上勉強していると身に馴染んでくるのだなという感じでした。

 

 前回の記事はこちらです。

kazuha1221.hatenablog.com

 

 今回はコード進行の基本形について書きます。これは自分の話ですけれど、自分は本当に音感も楽器経験も無の状態から作曲を始めて、右も左も分からなかった当時「コード進行が色々あるのは分かるし、それぞれ響きが違うことも分かるけど、具体的には何がどう違うの」ということがよく分からなかったというのがあって。つまり「こういう曲を作りたい!」となったときに『どういう進行を使えばいいのか』ということなんですが、そういった動機もあり、自分用のまとめも兼ねてこれを書いています。話半分に読んでください。

 また、自分は Soundquest を参考に勉強したりしなかったりしているのですが、具体例が豊富かつ分かりやすいのでオススメです。

soundquest.jp

 具体例を結構用意したので、音楽理論を何も知らない人でも楽しんで読めるようになっていると思います(理論は自分もよく知らない)。

 ※注意:主にポップスを作りたい人向けです。

【2021/01/28追記】

 主に個人用としてまとめているものですが、各進行が用いられている楽曲を集めたプレイリストを追記しました。コードを調べたついでに更新していっている程度のものなので、サンプル数はそれほど多くありませんし、自分が普段聴いている音楽に偏っています。

 ブログ上に埋め込まれているリストは記事作成段階から更新されたりされなかったりするようなので、随時更新されていくであろうデータは、併せて記載されてあるリンク先へ飛んで閲覧してください

【2021/01/28追記ここまで】

 

 

〇 I – IV – V – VIm(1456進行)

 最初に扱うのはこの進行です。音楽的な用語でいえば I,VI はトニック、IV はサブドミナント、V はドミナントですが、用語自体はどうでもよく、緊張の度合いが(長調なら)I<VIm<IV<V の順に大きくなるという感じの理解をもっていればとりあえずは十分だと思います(緊張 is 何? という疑問がありますが、自分はもうそういう表現の一種として受け入れてしまいました)。I – IV – V – VIm なら『強い緩和』→『弱い緊張』→『強い緊張』→『弱い緩和』の順に展開が進むという感じで、一小節単位で切り替えるなら三小節目にアクセントが入るような作りになります。またループ頭が I による『強い緩和』から始まるので、穏やかな曲調を目指すときは向いてますね。

 『staple stable / 戦場ヶ原ひたぎ』はサビ冒頭の進行が、ちょうどいま話題にしている I – IV – V – VIm ですが、上で言っていたような緊張感の遷移が何となく分かってもらえると思います。I と V の上でソの音を叩くので力強さを伴ったサビになっています。

 

 

 以降、この I – IV – V – VIm を色々と組み替えることで、基本的なものから応用編まで、様々な進行を作っていくことを考えます。

 

 

〇 I/III – IV – V – VIm

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  まずは I が I/III と転回形になったバージョンです。I/III は I であることには変わりないので相変わらずの安定感を持ちますが、I のそれに比べると若干劣ります。少し踏み込んだ内容に触れると、一般にはベースがどこを鳴らすかによって上に乗っているメロや和音の性質が変化します(『 I という和音の上にある』という属性と『ミというベースの上にある』という属性が融合するイメージ)(ハーモナイズ。Soundquest 参照)。なのでベースラインがどこにあるのかはメロディラインにとっても重要な検討材料です。

 また今回の場合、ルートがミ→ファ→ソ→ラと順次進行で上昇するので、上で言った安定感の欠落も相まって『徐々に始まっていく感じ』がするような気がします(個人的に)(勿論、編曲次第ですけれど)。物語の幕開けのような、イントロや A メロなんかに特に向いている進行のような気がしています(そうでないといけないというわけではない)(下に A メロで用いられている例しか挙がっていないのは、単に自分の捜索力不足という説があります)(追記: B メロでの使用例も普通にありました)。

『アカシア / BUMP OF CHICKEN』は A メロ冒頭が I/III – IV – V – VIm です。「これから何かが始まりそう!」という期待感がありますよね。

 

『GO / BUMP OF CHICKEN』の A メロも I/III – IV – V – VIm です。このワクワクを感じ取ってほしい。

 

Tokyo 7th シスターズ』の楽曲、『ひまわりのストーリー / Le☆S☆Ca』も A メロの前半が I/III – IV – V – VIm です。歌詞が曲の雰囲気(期待感)にきちんと寄り添っていてとても良いですよね。

 

『スポットライト / PENGUIN RESEARCH』も A メロ前半が I/III – IV – V – VIm です。二番のほうが分かりやすいかも。

 

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『ヒカリのdestination / イルミネーションスターズ』も A メロ前半が I/III – IV – V – VIm です(実はサビの後半でもう一度出てきます)。『雨上がり 青い空 何かが起こりそうな』という歌詞が当てられていますが、音楽的な視点から見てもまさしく通りですね。

 

 

〇 IIIm – IV – V – VIm(3456進行)

 I/III を IIIm に置き換えてみます。するとルートのミ→ファ→ソ→ラという順次進行は維持されたままなので『徐々に始まっていく感じ』は残るものの、I による安定感が消失するので解決感みたいなものは薄れ、全体的にピリついた緊張感のある展開になります。IIIm についてはトニックとドミナントの二面性があるという理解をしていれば十分だと思いますが、一言で言えば IIIm は『カッコイイ』です。

『good friends / BUMP OF CHICKEN』は A メロが IIIm7 – IVadd9 – V – VIm7 です。I/III のときに比べて、少し沈んだような雰囲気になっていますね。

 

 

〇 Iadd9/III – IV69 – Vsus4 – VIm7(11)

 ついでにこれもやってしまいましょう。変わった点が多々ありますが、基にあるのは上で紹介した I/III – IV – V – VIm です。ひとつひとつ見ていきます。まず Iadd9/III は何かといえば、I/III にレ(9th)の音が追加されています。次に IV6 ですが、これはレ(6th)の音が追加されています。Vsus4 は構成音からシが消えて、代わりにドが追加されています。最後に VIm7(11) はソ(7th)とレ(11th)が追加されています。

 つまり、各和音の構成音はこうなっています。

Iadd9/III:ド、レ、ミ、ソ

IV69:ド、レ、ファ、ソ、ラ

Vsus4:ド、レ、ソ

VIm7(11):ド、レ、ミ、ソ、ラ

 こう表せば一目瞭然で、各和音の構成音には『ド、レ、ソ』の三つが常に含まれていることが分かります。すると和音進行としては共通音を常に三つ持って進むことになり、通常こういった場合には平坦な印象(場面変化がない印象)の展開になります。しかもド、レ、ソはいずれも傾性の低い音(傾性については Soundquest 参照)なので、結果として、この形で使われる I/III – IV – V – VIm は『落ち着いた感じ』と『何かが始まりそうな感じ』を両立することになります。

君の知らない物語 / supercell』の冒頭四小節が Iadd9/III – IV6 – Vsus4 – VIm です。『落ち着いた感じ』と『何かが始まりそうな感じ』が共存していて、イントロとしては最高の部類だと思います。

 

 

〇 IV – I – V – VIm(4156進行)

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 さて。はじめの I – IV – V – VIm に話を戻し、この進行で I と IV を入れ替えてみます。すると IV – I – V – VIm という進行になりますが、先の話で言えばこれは『弱い緊張』→『強い緩和』→『強い緊張』→『弱い緩和』という展開になります。ループにおける二小節目と四小節目に安定感があり、四小節目は次のループへの繋ぎのようになるような形です。ループが IV の『弱い緊張』から始まりますが、直後に I による『強い緩和』があるので、ほどよい緊張感という感じです。

『アイネクライネ / 米津玄師』の A メロ前半が IVadd9 – I – V – VIm7 です。ほとんどの和音に『ド、ソ』が入っていて落ち着いた感じの進行になっています。またボーカルの入りは IVadd9 の上のソで、IVadd9 の透明感が出ていていい感じです。

 

『Gravity / BUMP OF CHICKEN』の A メロ前半も IVadd9 – I – V – VIm7 です。ボーカルの入りが IVadd9 の上のソを唄っているのも同じですね。IV の上でのソは頻出です。

 

『boyhood / PENGUIN RESEARCH』はサビ前半が IVadd9 – I – V – VIm です。これもまたボーカルの入りが IVadd9の上のソを叩いています。勢いのある編曲にすると、IVadd9 の上のソは特に尖って聴こえます。

 

『ray / BUMP OF CHICKEN』はサビ前半が IV – I – V – VIm7 です。サビ入りのボーカルは IV の上のドを唄っていて、ソの鋭さとは対照的にドは力強さが目立ちます。

 

 

〇 IV – V – I – VIm(4516進行)

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 上の進行でさらに I と V を入れ替えてみると、このようになります。これは『弱い緊張』→『強い緊張』→『強い緩和』→『弱い緩和』という展開になっていて、緊張のタイミングが前半に偏っています。なので、先ほどの IV – I – V – VIm に比べると少し強めの緊張感が付与されることが予想されます。

『キリフダ / BUMP OF CHICKEN』の A メロ前半が IV – V – I – VIm です。たしかに二小節目でもまだ落ち着かないような感じがして、それがやっと三小節目で解消されるという作りになっています。また、ボーカルの入りは IV の上のミ、つまり 7th になっていて、これもこの A メロのカッコよさに一役買っています。曲調によっては IV の上のソのような透明感は却って邪魔になるということですね。

 

 

〇 IV – V – I – VI

 キメの VIm を VI に変更してみます。するとすべての和音がメジャーコードになるのでいわゆる『暗さ』みたいなものが消え、ノンダイアトニックコードの華やかさも相まって一気に明るく浮かび上がる感じの印象になります。物は試し、聴いてみましょう。

『-OZONE- / vistlip』ですが、サビのあとに構えているフレーズの前半が IVadd9 – V – I – VI7 です。シェルは順に M2→R→3rd→7th となっていて、キメの VI で 7th を唄うことによって、VI が鳴った瞬間の煌びやかな響きが補強されているという印象を受けます。IV の上の M2、つまりソが鋭く透明な響きになるのは先述の通り、V の上でルートシェル、I の上で 3rd シェルをそれぞれ取っているのもポイントが高くて(シェル。Soundquest 参照)、これらはカーネルとシェルの相乗効果によって、それぞれ愚直な力強さと強烈な情感を与えます。このメロのキャッチーさの一因は、間違いなくここにあると思います(他にもある)。

 

 

〇 IV – V – VIm – I(4561進行)

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 さらに I と VIm を入れ替えてみます。するとこれは『弱い緊張』→『強い緊張』→『弱い緩和』→『強い緩和』で、直前の IV – V – I – VIm にあった I による安定感の到来がさらに後ろへずれこむ形となります。ループの最後に満を持して解決感がやって来るという構図ですね。I から IV は四度上行(いわゆる強進行)なので、ループ頭へ戻るときに若干の引力があります(流れていく感じ?)。

『車輪の唄 / BUMP OF CHICKEN』の A メロ前半は IVadd9 – V – VIm – I – IVadd9 – V – VImVIm という進行をしています。四小節目から五小節目のループ頭へ戻るとき、メロディラインも相まって何だか引っ張られていくような感じがしますね(『僕等の体を運んでいく』という歌詞の通り)。

 

『オシャレ大作戦 / ネクライトーキー』のサビは IV – V – VIm – I です。歌詞もメロディもビートも、揃いも揃ってハイテンションのままに流されていく感じで良いですよね。

 

『メルティランドナイトメア / はるまきごはん』の B メロに IV – V – VIm – I が用いられています(『貴方はドアを開けたの 僕の世界のドアを選んだの』の部分)。それまでの展開と違って、何かが自動的に迫ってくるような錯覚に陥ります(後ろでリバース音が鳴っているのも一因だと思う)(ここの歌詞もやっぱり噛み合っていて、開いた扉の向こう側にいた何かの到来を感じる)(この曲の一番良いところは、その勢いを殺さずにサビへ突入するところ)。

 

 

〇 IV – V – VIm – IIIm(4563進行)

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 先ほどやったように I を IIIm で置き換えてみましょう。すると上のような進行になります。こうすると I の安定感や I から IV への四度上行による調和などが消失するので、適度な緊張感を保った展開になります。

『だから僕は音楽を辞めた / ヨルシカ』の冒頭にある間奏は IVadd9 – Vsus4 – VIm7 – IIIm – IVadd9 – Vsus4 – VIm7 – VIm7 です。『車輪の唄』の例にみた I を IIIm に置き換えた感じの進行になっており、そのときのような流れ込んでいく感じはあまりありません。

 

 

〇 IV – V – IIIm – VIm(王道進行、4536進行)

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 上の進行で VIm と IIIm を入れ替えてみます。あるいは前のほうにみた IV – V – I – VIm で I を IIIm に置き換えると考えてもよいです。すると、かの有名な王道進行になります。これは『弱い緊張』→『強い緊張』→『弱い緊張』→『弱い緩和』という動きをするのですが、IIIm から VIm は四度上行なので、先ほどの I から IV への動きがそうであったようにある程度の引力を伴って進行します。それまでに連続した『緊張』をこの引力で一気に緩和へ持っていくのが王道進行で、その展開自体に緩やかな物語性があるので、こいつをループさせておくだけで一曲作れてしまったりもします(途中で飽きない)。

『記念撮影 / BUMP OF CHICKEN』は一曲を通してずっと IVadd9 – Vsus4 – IIIm7 – IVadd9 – IVadd9 – Vsus4 – IIIm7 – VIm7 を繰り返しています。でも飽きない。王道進行の強みです。

 

『Just Awake / Fear, and Loathing in Las Vegas』は 1:50 辺りからおよそ 30 秒間 IV – V – IIIm – VIm が繰り返されます。疾走感の演出にも使える便利屋。

 

『捨て子のステラ / Neru』の B メロが IV – V – IIIm7 – VIm です。サビだけでなく、一番盛り上がる部分への繋ぎにも使えます(助走のイメージ)。

 

 

【2020/11/25 追記】

〇 IV – V – IIIm – [ VIm – VI ]

 王道進行の派生形の一つとして、 VIm の直後に VI を挟むという形があります( IV – V – I – VI という進行を既にみていることに注意)。VI の和音はノンダイアトニックですが、直前に VIm というマイナー型のコードを挟んでいる分、若干の暗さを引きずっているような印象はありますが、VI が鳴る瞬間、たしかに全身がふっと浮かび上がるような感覚がします。

 主にキメの部分で用いられる進行で、VI のあとは大体 IIm へ進行します(ループで使う場合もある)。

Fight For Liberty / UVERworld』のサビ後半が IV – V/IV – IIIm – [ VIm – VI ] です。『たった一回しかチャンスが無いのなら』というフレーズの最後で VI が鳴っており、VI に特有の浮遊感が感じられます。また、この曲は VI の後、IIm へ進行しています。

【2020/11/25 追記ここまで】

 

 

〇 IV – V – III – VIm( IV – V – #Vdim – VIm

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 王道進行で IIIm を III に置き換えると、この進行ができあがります。構成音をみてみると

V:レ、ソ、シ

III:ミ、ソ#、シ

(#Vdim:レ、ソ#、シ)

VIm:ド、ミ、ラ

となっていますが、これをみれば V→III→VIm の中にソ→ソ#→ラという(ダイアトニックだけだと実現しない)半音上昇が入っていることが分かると思います。IIIm が III に変化したことでソが半音上のソ#に吊り上がるわけですが、これはラの音へ向かいたがる傾向がとても強いです(傾性。Soundquest 参照)。その性質を利用して王道進行にあった IIIm→VIm の四度上行をより強力にしたというのが IV – V – III – VIm です。キメのところ(≒ここぞというところ)で使われることが多いイメージですが、息をするように使ってもそれはそれで味が出ます(後述)。

 III という和音のイメージは『暗すぎ』または『カッコ良すぎ』です。これは肯定的にも否定的にもそうで、その『暗すぎ』だったり『カッコ良すぎ』だったりが、曲調によってはピッタリとハマったり、あるいは余計な印象になってしまったりします。そういうわけで使いどころを選ぶ和音ですが、綺麗にハマったときのカッコよさは最高です(『暗すぎ』とか『カッコ良すぎ』が『切なさ』だったり『疾走感』だったりに繋がるわけです)。

 もう一度例に挙げます(良い曲なので何度も例に出したくなるんですよね)。先ほど IV – V – I – VI のときに紹介したパートの少し後、つまりサビの後にくっついているフレーズの後半部分ですが、そこが IVadd9 – V – III – VIm7 になっています。III が鳴る瞬間の何とも言えない張り詰めた感じと、次の小節線へ猛烈に進みたくなる感じを聴きとってください(VI のときとはまるで対照的)。この曲の場合、サビ後の『意外性』を演出するにしても同じことを連続で二回するのは能がないので、それぞれのパートで違った役者を立てているというわけです。

 

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『ガールズ・イン・ザ・フロンティア』の B メロ前半が IV – V – #Vdim – VIm です。先ほどの『捨て子のステラ』と同様、サビへの繋ぎに使っても十分に役目を果たしてくれます。

 

 

〇 IV – III – VImVIm(436進行)

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 IV – V – III – VIm という王道進行の形から V を消してみます。するとこのようになるわけですが、IV の『弱い緊張』の直後に III というダイアトニックの世界にいない和音があり(ここに『意外性』がある)、さらに先述の通り、こいつは猛烈な力を以て VI 型の和音へ進みたがるので、この形の進行は拍車のかかった疾走感という印象を与えます(人に依るかとは思いますけど)。

 以下の具体例にみるように、ダークに染まった感じの曲調を目指したいなら、真っ先に頼りにしていい進行だと思います。

ジョーカーに宜しく / PENGUIN RESEARCH』のサビ冒頭が IVM7 – III7 – VIm7 – VIm7 です。IVM7 の個人的なイメージは『暗くて息苦しい』です。それが遅いリズムだと『閉塞感』になったり、速いリズムだと『カッコよさ』になったりします。サビ入りのボーカルは IVM7 の上のラを唄ってますね。和音における第三音は和音の性質(メジャー、マイナー)を決定づける要素ということもあって、情感演出のスペシャリストという側面があります。またラの音はマイナースケールでの主音でもあるので、こういったダークな雰囲気にはぴったりの選択という感じがしますね。

 

『パンダヒーロー / ハチ』もサビが IVM7 – III7 – VIm7 – VIm7 でできています。サビ入りのボーカルは、直前の例と同じく IVM7 の上のラを唄っています。ダーク!

 

『ロキ / みきとP』もサビ冒頭が IVM7 – III7 – VIm7 – VIm7 です。IVM7 のイメージは III のイメージと似通う部分が結構あるので、この形の進行だと IV はだいたい IVM7 になっているという印象があります。IVadd9 – III7 – VIm7 – VIm7 みたいなのはあまり見かけませんね(無いってことはないと思いますけれど)( IVadd9 のイメージは『透明感』)。

 サビ入りのボーカルは IVM7 の上のミを唄っています。これも頻出のケースです。IVM7の上のミはルート音(ファ)と半音関係にあるために強烈な違和感というか、「早く解決したい!」という欲求を煽るような響きになります。それが却って疾走感の演出に繋がるというわけです。

 

 

〇 IV – III – VIm – V(4365進行)

 後半についてですが、VIm が連続するのでは面白みに欠けるので、少し弄って最後の VIm を V に置き換えてみます。IV – V – III – VIm という形の王道進行で V を四小節目に動かしたと考えてもよいです。こうするとスタート地点こそ IV であるものの、基本的に 6→5→4→3 という順次下降を繰り返す形になることが分かります。『強い緊張』の代表である V がループ終わりにいて、かつ I のような『強い緩和』をもたらすキャラクターは相変わらず不在なので、単純な IV – III – VImVIm よりも緊張感がさらに増してダークさに磨きがかかった感じですね。

『アンチリアリズム / *Luna』です。サビも同様の進行ですが、曲の入りからいきなり IVM7 – III7 – VIm7 – V 一色で、とてつもない緊張感があります。

 

 

〇 IVM7 – III7 – VIm7 – I7(丸ノ内進行?)

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 V の代わりに I7(構成音はド、ミ、ソ、シ♭)を置いてみます。I7 は I にテンションがくっついた形なので安定感のようなものは若干あるものの、シ♭という馴染みのない音があるおかげで複雑な響きになり、理由は省略しますが(二次ドミナント。Soundquest 参照)、この和音は IV(特に IVM7 )へ進みたいという欲求をとても強く持つことになります(もともと I→IV は四度上行なのでいい感じのパートナーなんですが)。その性質を利用して IV – III – VImVIm のような「四小節目の停滞感」を解消しようということです。

丸ノ内サディスティック / 椎名林檎』です。一曲を通して多く用いられていますが、サビが一番分かりやすく IVM7 – III7 – VIm7 – I7 のループです。この進行が用いてられている曲だとかなり有名なんじゃないでしょうか?( IVM7 – III7 – VIm7 – I7 を『丸ノ内進行』と呼ぶ人もいますし)。I7 の独特な推進力のようなものがはっきりと分かる楽曲です。サビ入りのボーカルは IVM7 の上のソを叩いているので IVM7(9) と言ってもいいかもですね(『閉塞感』と『透明感』の両立)。

『第六感 / Reol』はサビが IVM7 – III7 – VIm7 – I7 のループです。III7→VIm7、I7→IVM7 というノンダイアトニックコードを伴う四度上行が二つもあり、カッコよさも申し分ないのでダンスチューンにはぴったりの進行という気がしますね(実際、436ってめちゃくちゃクラブミュージックに多くないですか?)。

 

 

〇 IVM7 – III7 – VIm7 – [ Vm7 – I7 ](43651進行)

 もっとお洒落にしてみましょう。VIm7 と I7 の間に Vm7 を挟んでみます。Vm7 は文脈によって色んな響きに聴こえるという印象を自分は持っていますけれど、個人的に一番強くあるイメージは『哀愁と背中合わせの明るさ』です。普通は V を置くような場所で Vm を代わりに挿入して変化を演出するという使い方をしますが、自由度が少し低い(前後の和音によって接続度合いが異なる)ので、いつでもそれができるというわけではありません。が、今回は可能です( VIm7→Vm7 は和音の平行移動)(クオリティチェンジ。Soundquest 参照)。

『夜に駆ける / YOASOBI』のサビ冒頭の進行が IVM7 – V – IIIm7 – VIm7 – IVM7 – III7 – VIm7 – [ Vm7 – I7 ] です。前半が王道進行、後半がいままでに見ていた436進行の派生形です。

 

 

〇 IVM7 – III7 – VIm7 – II7

 別の選択肢を模索します。I7 ではなく II7 を置いてみましょう。すると(以下に紹介する具体例を聴けばわかるように)IVM7→III7→VIm7 による『カッコつけ』を一瞬で吹き飛ばすほどの強烈な希望感が四小節目に待ち構えています。これは II7 というノンダイアトニックコードの持つ性質と VIm7→II7 という四度上行の調和性に因るところです。曲調によってはこういった『一瞬だけカッコつける』というポーズが活きる場面もあるということですね。

 また、これまでにみた 436 進行の派生形と違って、この進行をループさせて使うことはあまりせず、大体の場合 IIm7 へ進むような気がします。

『逆さまのLady / 三月のパンタシア』、前のほうで例に挙げましたが再掲します。この曲の B メロ冒頭が IVM7 – III7 – VIm7 – II7 です。A メロやサビのきらめいた雰囲気とは一転、B メロは少しだけ塞ぎ込んだような印象を受けますが、それも束の間、『知ってしまえば』というフレーズが入ったところで一気に浮き上がるような心地がします。良い曲!

 

 

〇 IVM7 – III7 – VIm7 – #IVm7(b5)

 さらに別の方法を模索しようとすると、このような進行を考えることができます。これがどこから出てきた発想なのかということは II9 と #IVm7(b5) の構成音をみてやればすぐに分かることで、下から順に並べると

II9:レ、#ファ、ラ、ド、ミ

#IVm7(b5):#ファ、ラ、ド、ミ

となります。つまり II9 からレを取り去ったものが #IVm7(b5) になっているということです。ということは IVM7 – III7 – VIm7 – II7 という進行の II7 を #IVm7(b5) に置き換えてみても良いのでは、という発想が出てきます。実際、いい感じの響きになるかどうかはやってみないと分からないのですけれど(例えば I と IIIm は共通音を二つ持つので、普通に成立する I→I という進行を IIIm→I と置き換えることが考えられますが、これはかなり重大な禁則進行という扱いを受けています)。

フラジール / ぬゆり』のサビ冒頭は IVM7 – III7 – VIm7 – #IVm7(b5) です。II7 はファがファ#に持ちあがるわけなので『浮遊感』みたいなものがありましたが、#IVm7(b5) は #IVm7 に含まれるド#がドに引き下げられるわけなので、こちらは『淀む感じ』の演出に使えます(他の使い方もある)。そう思えば、ここで II7 ではなく #IVm7(b5) を採用するというのは、この曲調にとってはぴったりの選択ですよね。

 またフラジールの B メロには IVM7 – III7 – VIm7 – #Im7(b5) という進行が登場しますが、これも基本的には上と同じ原理で、この場合は IV – III – VIm – VI という進行からの発想になります。

 

 

〇 IV – IIIm – VImVIm(436進行)

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 四小節目を模索するのはさておいて、二小節目の III を IIIm に戻してみます。すると III→VIm の持っていたソ#→ラという半音上昇は消えて、IIIm→VIm の四度上行による進行感だけが残ります。これは十分に強力な進行ですが、III→VIm に耳が鳴れてしまうとそれほど強くも感じなくなりますね。ということで、こちらは IV – III – VImVIm の強力すぎる進行感を弱めた進行になります。ダークな感じを前面に押し出したくないときはこちらを使ったほうがベターという印象が個人的にはあります。

『シニバショダンス / PENGUIN RESEARCH』のサビ冒頭が IVM7 – IIIm7 – VIm7 – VIm7 です。「シンプルにカッコいい!」って感じですね。

 

 

〇 IV – IIIm – III – VIm( IV – IIIm – #Vdim – VIm

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 436 進行の 3 はメジャーでもマイナーでも使えるということを上でみましたが、メジャーとマイナーの両方を連続させて組み込むことも可能です。この場合は IIIm→III という流れのほうが一般的のような気がします( III のソ#はラへ行きたがる性質をもつので、わざわざ吊り上げた以上はそのまま VIm へ繋げたいという気持ち)。

『ココロ / トラボルタ』のサビ冒頭が IVM7 – IIIm7 – #Vdim – VIm7 です。#Vdim の部分で『加速する』という歌詞が当てられていますが、III の強烈な躍進力と噛み合っていてとても良いですね。

 

 

〇 IV – IVm – IIIm – VIm

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 さらなる派生を考えます。初めに紹介した 436 進行は VIm が二つ分カウントされていましたが、IV のほうが二つ分カウントされるケース、つまり IV – IV – IIIm – VIm という進行ですが、これも頻出の形です。この場合は IV の『弱い緊張』がしばらく継続するのでまた違った雰囲気になりますが、ここで二つ目の IV を IVm に置き換えてみます。すると IV – IVm – IIIm – VIm という進行ができあがります。IVm の個人的なイメージは(どこをどう♭するかという問題がありますが、基本的には)『切ない』で、こうするとまた違った表情が演出できたりするわけです。

 この進行だけ具体例を出すのを諦めてしまったんですが(手持ち楽曲の無さ)、こういう進行があるということだけ紹介しておきます。以下にいくつか続きますが、実際には IVm への置き換えが行われる場合、他の部分も色々と置き換えて、より意外性の強い進行にすることが多いです。

 

 

〇 IVM7 – IVmM7 – IIIm7 – VI7

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 直前の進行で VIm を VI に置き換えた形です。前半に薄らと漂う緊張感や切なさを VI の明るさで消し飛ばすという展開になります。VI は基本的に IIm7 へ進んでしまったほうが綺麗ということもあり、ループとして使うにはあまり向きません。

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『Yes! Party Time!!』の B メロが IVM7 – IVmM7 – IIIm7 – VI7 です。試聴動画だと一番しか聴けないと思いますが、二番の B メロが特にわかりやすいです。また、この曲で VI の直後にある和音は IIm7 です。

 

 

〇 IVmM7 – IVmM7 – IIIm7 – [ IIIm7(b5) – VI ]

 直前の進行で一つ目の IV も IVm にしてしまって、IIIm→VI の間に IIIm7(b5) を挟んだ形です。この文脈でのハーフディミニッシュのイメージが『沈んだ感じ』というのは先述の通りで、直前の進行を切なさに全振りした感じの展開になります。これもループには不向きで IIm7 へ進んでしまうのが良いと思います。

『カレンダーガール』の B メロ前半が IVmM7 – IVmM7/bVI – IIIm7 – [ IIIm7(b5)/VI – VI ] です。VI が鳴った直後に『さっきの気分も忘れちゃって』という歌詞が入っていますが、かなり的確な表現がなされていてとても好きです。この曲でも VI の直後にあるのは IIm7 ですね。

【2020/11/12 追記】

『カレンダーガール』、C メロ冒頭が IVM7 – IVmM7 – IIIm7 – [ IIIm7(b5)/VI – VI ] です。

【2020/11/12 追記ここまで】

 

 

〇 IVM7 – IVmM7 – [ IIIm7 – #Vdim ] – [ VIm – VI ]

 一つずつ確認します。

 まず IV – IVm – IIIm – VIm の基本形に対して IIIm→VIm の間に #Vdim を挟んでいますが、これは IV – IIIm – VImVIm から IV – IIIm – III – VIm を作ったときと本質的には同じことをしています(パッシングディミニッシュ)。

 次に VIm を直接 VI に置き換えるのではなく、VIm の直後に VI を置くという形で VI を差し込みます。これは IV – V – IIIm – VIm から IV – V – IIIm – [ VIm – VI ] を作ったのと同じです。

 というわけで、既にみた複数の進行を組み合わせてできる進行がこちらになります。IVM7 の薄暗さ、IVmM7 の切なさ、 #Vdim の緊迫した躍進力を巻き込みながら展開が進み、VIm に落ち着くとみせかけて VI の希望感による裏切りを仕掛けるという構図。

『パレイド / 夏川椎菜』の C メロ(2サビ後)前半が IVM7 – IVmM7 – [ IIIm7 – #Vdim ] – [ VIm – VI ] です。『前に進んでいけるのかな』の『な』が唄われるのと同時に VI の和音が鳴っています。この曲でも VI の直後にあるのは IIm7 です。

 

 

〇 IV6 – IVm6 – IIIm7 – Im/bIII

 IV – IVm – IIIm – VIm の基本形で VIm を Im/bIII に置き換えた進行です。ここにはステップが省略されていて、まず VIm を bIII に置き換えて、それをさらに Im/bIII に置き換えたという風に考えたほうがよいような気が個人的にはしています(パラレル・マイナー。Soundquest 参照)。Im は調の主役であるところの I がマイナーにひっくり返るわけなので、調性そのものを曖昧にするような効果があります(これまでにみた VI とはまた違った効果)。また、作り方から明らかなように、これも IIm7 へ接続します( IIIm→bIII→IIm の流れが土台にあるので)。

『スポットライト / PENGUIN RESEARCH』のサビ中盤が IV6 – IVm6 – IIIm7 – Im/bIII です。『報われる保証も無いが 予感を信じて走れ』という部分で、『走れ』のところで Im/bIII が鳴っています。調性(根本的なもの)が揺らぐようなタイミングにこの歌詞を当てているのがいいですね。この曲で Im/bIII の直後にある和音はもちろん IIm7 です。

 

 

〇 #IVm7(b5) – IVM7 – III7 – VI

 IVM7 – IVM7 – III – VIm に話を戻します。ここでも VIm を VI に置き換えるということをするのですが、それと同時に一つ目の IVM7 を #IVm7(b5) にしてみます。構成音としては順に

IVM7:ファ、ラ、ド、ミ

#IVm7(b5):ファ#、ラ、ド、ミ

なので、ファがファ#に持ちあがる感じになり、この文脈で使うと妙に浮かび上がったような響きになります。VI のふわふわした雰囲気も相まって、暗いとかいうよりはむしろちゃらけた風に聞こえますね。

『感電 / 米津玄師』の A メロ終わりが #IVm7(b5) – IVM7 – IIIm7 – VI です。『ちょっと変にハイになって 吹かしこんだ四輪車』の部分ですね。「たしかにちょっと変にハイになってんな」という印象。「感電」はこの進行のあとに B メロへ入りますが、B メロ頭の和音は IIm7 です。

 

『カレンダーガール』のサビ終盤に #IVm7(b5) – IVM7 – IIIm7 – VI が使われています。『カレンダーめくって今日も わたしらしくアレ』の直後から。この進行のあとに来ている和音はやはり IIm7 ですね。

 

 

 

 以上。ちょっと書きすぎました。IVm だけでなくて Vm が絡んでくる進行や、それに今回は日の目を見なかった IIm 絡みの進行など、紹介したいものは他にもたくさんあったんですが、それはまたの機会とすることにします。