cor について2

 

 2022/04/24 開催の春 M3 にて頒布した MIRINN 1st Album "polaris" 収録の楽曲『cor』についての話をします。音楽的な要素については前回の記事で触れたので、今回は楽曲そのものの設定だとか背景だとか、そういったことについて書いていこうかなという感じです。作者の意図的な部分についての話を聞きたくない~って方はブラウザバックしてもらえたらと思います。

 cor / MIRINN は以下のリンクから試聴できます。

mirinn.bandcamp.com

 これは前回の記事。

kazuha1221.hatenablog.com

 

 “cor” という曲名について。cor は「心臓」という意味のラテン語で、record, discord, core などの英単語に引き継がれていたりするっぽいです。正しいかどうかはさておき、自分は「コル」と読んでいます。心臓を表す言葉であればカルディアとかのほうがより心を惹かれる響きではあるものの(アの音で終わる単語が好き、という設定がある)、そんなカッコいいタイトルをつけるような曲では決してない、という事情もあって、現在の『cor』という曲名に落ち着くこととなりました。BUMP の『レム』みたいにカタカナで記す案も一応あるにはあったんですけど、カタカナにしたときの並びが気に入らなかったので没。

 曲名は歌詞を書き終えた後に決めました(いつもそう)。スマホのメモ帳をみる限り、2021/11/13 にはもう決まっていたらしいですけれど、『cor』というタイトルに辿り着くまでには結構難儀したような記憶があって。というのも、自分はコンセプトというか、その曲で表現したいことみたいなそれを割と明確に持った上で歌詞を書き始めることが多いので、だから曲名を決めかねると言っても、そんなに長い間悩むことってあまりなく。ところで『cor』という楽曲は肝心のコンセプトが少々特殊で。有り体に言えば、誰にも悟られたくないっていうか。自分個人の気持ちとしてもまあそうなんですけど、どちらかというと、歌詞に登場する一人称の気持ちとして。なので、クリティカルな用語を曲名として据えることにそこそこの抵抗があり、ところで何の関係もない言葉を充てがつもりもはずもなく。その辺りのバランス感が難しくて、一一月の初めはずっと「どんなタイトルなら納得できるかな〜」と考えていたような気がします。その点、”cor” という命名に個人的にはかなり納得していて。カッコいいわけじゃないし、オシャレってわけでもなく。キラキラした感じも濁った感じも、赤も青も黒も白もない。ものすごくニュートラルというか。それでいて、discord や record といった例を出せば既存の認識と結びつくという程度に本来は身近な、近すぎず遠すぎずの場所にある言葉で。めちゃくちゃちょうどいいなーって。なので、タイトルはそこそこお気に入りです。パッと見で読み方が分かんないところもポイント高めですね。

 

 以降は歌詞とか設定とかについて長々と書いていきます。この辺りの話を比較的詳細に記した怪文書が、当楽曲のボーカル担当であり、すなわち MIRINN のボーカル担当であるところのなずしろさんへは共有されているのですが。ところで、その場以外にこの曲の諸々について話した記憶はあまりなく。なので、ここが初出ですね。前述の通り、もう半年も近く前に書いた歌詞なので、そろそろ潮時かなって感じです。

note.com


「明けない夜はない」って言葉があるじゃないですか。なんていうか、あれって言葉足らずだよなと思うことが結構あって。言葉足らずっていうか、卑怯? 心が苦しい時期のことを夜に喩えて、でもきっといつか報われるときがくるよって、そういう意図で使われることが多いと思うんですけど、その言葉は。でも、それでいうなら沈まない太陽だって日常世界においては存在しないわけで(白夜があるけど、日常ではない)。準えれば、いまがどんなに素晴らしくたって、でもきっといつか終わってしまうときがくるよって、そういうこともちゃんと主張すべきなのでは、と思ってしまうというか。みたいな意味で、言葉足らずだよなと感じることがまあまああり。そんな風の考え方を自分はしがちということもあって、だからたとえば『リスティラ』なら「続いた夢も いつか覚めるけど」と唄っていたり。裏側というかなんというか、目を逸らしたくなるような事実にもちゃんと触れておきたいっていうか、でないと嘘になるよな、みたいな感覚。意識的にそうしているというわけではないんですけど、全然。でも、自分の歌詞はそんな感じの作りになっていることが多いなと、個人的にはそう思ったり思わなかったりしています。

 だから、別に心残りがあったというわけではなくて。これまでに書いたどの歌詞も、そのひとつひとつが自分の中では完結しているというか。自分の言いたいことについて、「嘘じゃない」と思えるくらいには右も左も同じくらい書いているつもりで。だから、心残りがあったわけではありませんでした、本当に。ところで、それはそれとして、という気持ちがあり。なにかというと、『ステラグロウ』という曲に対して。……世の中に未だ公開されていない楽曲のことを、さもこの文章を目にする全員が知っているかのような口調で書いていますが、まあ、こんなところまで読んでいるような人はだいたい知っているんじゃないのかなという気がするのでこのままいきます(知らないって人はごめんなさい)。

note.com

 あの曲は自分の書いた歌詞の中でも異例というか、いまとなっては異例でもなんでもないんですが、ただ作詞当時の段階ではそうだったという話があり。というのも、明確に架空の人物について書いたのは『ステラグロウ』が初めてで。もちろん、その構成要素には自身の主義主張や経験なんかが多分に反映されているのですけれど、ただ、自分の中では完全にスイッチを切り替えて書いていたっていうか。それ以前の歌詞は全部、なんていうか、現実世界に存在する明確な第三者と自分との関係をベースに書いていたみたいな自覚があり。だから、たとえば歌詞の中に「君」と「僕」とが出てきたとして、「君」視点のストーリーをまた別の曲で書くだなんて発想はそもそもなかったわけですが。ところで、だけど『ステラグロウ』はそうでなく。……という話ですね。

 人って、結局のところ勝手に救われるばかりだよなという感覚がずっとあって。誰かの話を聞きながら、適当な相槌を打って時間を潰して。大したことなんて何も言ってないのに「話せてよかった」とか。「あの日の君の言葉に救われたんだよ」「そんなこと、本当に言ったっけ?」、そういうの。何の気なしに発した言葉が他人を傷つけることがあれば、同じように他人を救うことだってあり得るわけで。この街のあらゆるところに、小石と同じくらい当たり前に転がっているような、そんな関係。『ステラグロウ』はハッピーエンドなんですよ、自分の中では。夜明けが来て、タイムリミットが来て、魔法が解けて、離れ離れになって、会えなくなって。でも、どこにいたってちゃんと分かるだとか、そんな嘘を肯定できるくらいには強い、二人だけの思い出があるから、だから大丈夫なんだっていう。ざっくりいえばそんな感じのことを書きたかったのが『ステラグロウ』という曲で。だから、あの曲の一人称である「僕」はちゃんと救われていて、「君」という存在に。それでハッピーエンドだっていう、そういう話なんですけど。

 

 いつになったら『cor』の内容に触れるんだって、そろそろ思われ始めた頃かなって気がするんですが、でも、これで制作の背景というかルーツというか、そういった部分に関する話がようやく一段落ついたというか。これまでの、ほとんど余談みたいな話の全部を踏まえたうえで、だから結局『cor』で書きたかったのが何だったのかという話へ戻ることにすると、有り体に言えば、それは『ステラグロウ』の裏側、要するに『ステラグロウ』における「僕」を救った側である「君」はどんな心情だったのかということで、そういう意味での裏側です。……という情報を持っている状態で二つの歌詞を読み比べてみると面白いかもですね。

note.com

note.com

 

 さっき言った通り、人って勝手に救われるものだと思っていて。『ステラグロウ』における「僕」もまた同じように勝手に救われて、「君」の言葉に。救われた側の「僕」にとって「君」はとても強く大きな存在として映っていて、それはだから『ステラグロウ』の中でだって勿論そうなんですが。でも、だからといって「君」の本心が実際のところはどうだったのかなんて、「僕」にとっては知る由も術もないことで。そういう意味で、あれは「明けない夜はない」のほうしか書いていない歌詞でした、しっかりハッピーエンドだし。一人称が知り得ない情報についてを記述しないということは、一人称視点で展開される物語においては当然のことで、だから別に心残りがあったというわけではないんですけど。ところで、それはそれとして。

 ”cor” はラテン語で「心臓」。朝が来て、夜が来て、今日が終わって、そしたらまた別の今日が始まって。そうやっていまも生きているのは、いつか始まった心臓がまだ動いているから。『cor』という楽曲において B メロからサビへ繋がる部分は三ヶ所あって、その全部で「息」という単語が用いられているのですけれど、だからそれが、どうして「心臓」という言葉が曲名に冠されているのかという問に対する答えにもなっていて。……みたいな? そういう設定の上に書かれたのが『cor』という歌詞であり、楽曲でした、実は。

 

 

 結構書いたな~って気がするんですが、これでもボーカル担当へ共有した怪文書の序章くらいにしか触れていないという事実があり。このことからも、該当の怪文書がいかに怪文書然としているか、何となく察しがつくという感じですけれど。でもまあ、そうですね。歌詞の内容に踏み込んだことを書くつもりはいまのところあんまりなくて、ただ、『ステラグロウ』と『cor』がいわば表裏一体みたいな、そんな感じの関係にある二曲だって話ができれば現状それでいいかなって感じだったので。なので、今回はこの辺りで一旦終わりです。

 前回の記事で「この曲の本当のアンチテーゼは『リスティラ』ではなくて~」と言っていたのは、だから『cor』は『ステラグロウ』のアンチテーゼだったという話で。あるいは「実は『ステラグロウ』のサビでも同じようなギターリフを使っていて~」と言っていたのは、『ステラグロウ』と『cor』とがそういった関係にある楽曲だからっていう。歌詞に関連性を持たせたのと同じように、編曲面にも共通項があれば嬉しいなっていう、結局はそれだけの話でした。