cor について


 2022/04/24 開催の春 M3 にて頒布した MIRINN 1st Album "polaris" 収録の楽曲『cor』についての話をします。音楽的な話から歌詞なども含めた全体的な話まで、色々と書けたらいいなと思っているのでネタバレ回避というか、作者の意図的な部分についての話を聞きたくない~って方はブラウザバックしてもらえたらと思います。
 cor / MIRINN は以下のリンクから試聴できます。

mirinn.bandcamp.com

 

 「 MIRINN のアルバムを作ろう!」という話になったのが 9 月末のことで、作曲の草案自体は 11 月頭にはできていました。草案っていうか、楽曲の展開、メインボーカルのメロディ、コード進行、リズムパターン、ギターリフ、その辺りです。M3 が終わってから MIRINN の一つ目の I 担当であるところの imanishi 君に指摘されて「たしかに」と思ったことがあって、言われてみれば『cor』という楽曲は、これまでないくらいに自分の「好き」がたくさん詰まったものになっているのかなって。

note.com 意識的では全くなかったんですけど、だからもう本当に、言われてみれば、って感じです。このことについては下のほうで詳しく触れると思います。

 

 

 1A メロ。原案の時点ではピアノ伴奏ではなくて、アコギでの弾き語り風になる予定でした。そうなるとちゃんと生で録ったほうが絶対に良いだろうという話にもなり、ところでそれは色々と難しそうだということになったので、MIRINN の一つ目の N 担当であるところの nion 君に伴奏を弾いてもらう運びとなりました。近すぎず遠すぎずの正しすぎる伴奏を的確に用意してくれた(=リテイクしなかった)nion 君には本当に感謝しています。当初の予定からは外れてしまいましたが、最高のイントロになったな~と思います。

 歌い出し 8 小節のコード進行は 

  V/IV - V/IV - I/III - VIm7/III - IIm7 - III7 - VIm7 - [Vm7 - I ]

です。コードワークにおいてリファレンスを設けることは基本的になく、普段聴いている音楽が直に出力されている部分だなと自分では思っているのですが、それでいうならここは完全に BUMP OF CHICKEN堀江晶太さんです。歌い出し V/IV のくだりは BUMP の楽曲から、後半の Vm7 は(別に堀江晶太さんに限った話ではないですが)堀江晶太さんの楽曲から、それぞれ聴いて覚えた音だな~って感じですね。メロディ的なところでは、とにかく 3rd shell( soundquest の用語)と 5th shell の二つをいい感じに叩きまくっています。意図的かと言われれば半分くらいそうで、残りの半分は違うという感じですが、ただ、どういうメロディ配置にするとどういう印象を受けがちなのかということが、主観的にでもざっくり掴めるようになったというのはこの数年での成長の一つかなと思っていて。それが如実に出ている部分かなーと思ったり思わなかったりします。あとは A メロ終わりの V7sus4(b9) と VI7(b9) にも言及しておくと、前者は堀江晶太さんの楽曲から覚えた、ここ最近の自分の曲ではお決まりになってしまったいつもの音ですね。後者は MIRINN の二つ目の N 担当であり、ボーカル担当でもあるところの nazushiro さんの楽曲から覚えた音です。二つともとても素敵な和音だな~と自分は思っていて、ところで nion 君の伴奏はその辺りのこともきちんと汲んでくれたものになっており、マジでもう本当に感謝の念しかありません。

 

 1B メロ。ちょっとだけ歌詞の領域へ踏み込んだ話になってしまうのですが、自分のプロットでは一人称の心情がこの辺りから少しずつ変わってきて。1A メロは、言ってしまえばただただセンチな感情でしかないというか、夢から覚めた曖昧な記憶の中に「ああ、なんか、懐かしい人がいたような気がする」って思うみたいな、そんな感じの。ところで B メロはそこからさらに一歩踏み込んだ回想になっていて(一番も二番も)、手にとって分かるくらい単純な情緒がどうこうというよりも、むしろもっと複雑な感覚であってほしいよな~という気持ちがあり。なので 1A よりは 3rd shell をとる場所が少なくなっていて、代わりに 7th shell がところどころで鳴るようになっています。8 小節目の『あお"い"ほのおも』の「い」とかは Vm7 の 7th shell で、めちゃくちゃ良い音~~~~~って思いながらメロディを考えていた記憶があります。単一色で表現できるような切なさじゃなくて、なんていうか、……なんていうんですかね? 濁っているとも思わないんですけど、なんていうか、なんていうか。難しいのでやめます、言語化。とにかく、自分が B メロで表現したかったことにめちゃくちゃピッタリな音だな~と思いながら作っていたので、『cor』の B メロはなかでもお気に入りのパートだったりします。B メロでは IIIm7b5、II7、VIIm7、IVm6 といった堀江晶太さんの楽曲から覚えたコードがしれっと大量に混ぜられており、そういう意味でも imanishi 君の言っていた「堀江晶太み」は的を射ていますね。

 

 サビ。『cor』において真っ先に生成されたパートです。ここから順に A メロ→ B メロ→間奏→シューゲイザー地帯→ C メロ( 2 サビ終わり)と生成されていきました(たしか)。という事情もあり、最初に考えたサビの雰囲気によって曲の方向性がそれなりに決定されたような感覚があります。

 作曲について話すなら、この辺りは自分の手癖が露骨に出てるな~という感じで。最初に生成されたパートなので当然なんですが、ドシドソ~を使ってるし、フレーズ返しの II7 が入ってるし、なにはなくとも 3rd shell を叩きまくる前半のメロディとか、最後にしれっと混ざるミ♭(移動ド)とか、その他諸々。最後のやつについては、『消えたポラリス』をきっかけにミ♭(移動ド)の響きが自分はかなり好きっぽいということに気がつき、その流れで今回も起用されたという感じです。用法としては、上から降りてくるのよりも(それも好きなんですが)、レ→ミ♭→レ(移動ド)という感じで「上がり切らない」のニュアンスとして使うほうが自分の好みっぽいです。このパート全体としてやりたかったことが、そもそも「やりきれない感じ」ということがあって。冒頭からいきなり下降していく歌メロとか。この曲、最高音と最低音が両方ともサビにありますし。あとは VIm7 でも安直に主音へ解決せずにシ→ドでちょっとタイミングをずらしたりとか、ソ♯やシ(移動ド)を経由して半音で動く部分を多めに作ってる辺りなんかも。『リスティラ』が「青春最高!!! 盛り上がっていこうぜ!!!!」みたいなサビで、その次に MIRINN として発表する曲ということもあり、なのである意味アンチテーゼ的な方向性でもいいのかなって、そんな気持ちで作っていました。この曲の本当のアンチテーゼは『リスティラ』ではなくて別の曲なんですけどね(仄めかし)。

 編曲面だと、こんなにも BUMP OF CHICKEN の気持ちで作ったの初めてだなってくらいには BUMP OF CHICKEN の気持ちでした(反復表現)。特にギター。バッキングギターの音取りは BUMP のバンドスコアと睨めっこしつつ考え、一方、右で鳴っているギターリフは自分がいつもギターを手に取ると手癖で弾くフレーズから生えてきています。ところでその手癖というのは BUMP OF CHICKEN の楽曲に由来しており、MIRINN の R 担当であり、ギターリフ担当であり、自分と同じくして BUMP ファンであるところのりっか君にはちゃんとバレていましたね、「『Aurora』ですね」って。実は『ステラグロウ』のサビでも同じようなギターリフを使っていて、だからもう本当にめちゃくちゃ好きなんですけど、こういう動き方をするギターが。ただその、前作のときには微妙に不満が残る結果となって、というのも、打ち込みだとスライドのニュアンスを出すのに限界があったんです、どうしても。ところで、このフレーズはスライドのニュアンスが一番気持ちいいみたいなところがあり、なので不完全燃焼~~~という感じだったのですが、今回、BUMP ファンであるりっか君にギターを弾いてもらえるということで、「これはやるしかない!!!」と思い、再び起用される運びとなりました(それと別の理由もあるんですが、ここでは割愛)。結果、マジの最強になったのでもう本当に正解でした(サビへ入った瞬間のスライドの音が気持ち良すぎる~~~~)。このサビに当てるギターリフとしてはもうこれしか考えられないってくらい、自分の中での正解に近いです。

 

 間奏およびアウトロ。そうですね、ここは imanishi 君にも指摘された通り、完全に堀江晶太さんの気持ちです。いや、全然関係ないんですけど、制作期間中、夜の三宮へ散歩に行った日があって、2021/10/10。海沿いの、人通りのほとんどない港周辺を歩いたんですが、途中、ちょっとした広場みたいなところがあって。すぐ目の前に海があって、柵もなくて、落ちようと思えば落ちれるみたいな、そんな場所があって。そこでサビのメロディを口ずさみながら、なんだっけ、歌詞を考えていたのか何をしていたのか、あんまり覚えてないんですが、とにかく『cor』のことを考えていて。それで、そのとき、サビのフレーズの直後に何となく歌ったのが、この間奏のフレーズでした。「めっちゃ良いメロ!!!!!!」と思い、ところでそのとき自分のスマホは電池が死んでいたので、絶対に忘れないよう、その場で移動ドへ変換したりして、それで帰って秒速で DAW へ打ち込みました。当時は BUMP よりも PENGUIN RESEARCH堀江晶太さんのバンド)のほうをよく聞いていた時期で、BUMP の気持ちだったサビから堀江晶太の気持ちの間奏へ移るのにはそういう背景事情があります。でもギターリフは BUMP の気持ちのままなので、二つの気持ちがいい感じに混ざりあっているかなーって部分ですね。

 アウトロのほうへ先に触れておくと、絶対シンバルを拍頭で鳴らしまくるやつをやりてえ~~~~~って気持ちでリズム隊は組みました。PENGUIN RESEARCH やりこみ勢なら自分がどの曲に感化されてこういった構成にしたのかが分かるかもです。ちなみに『敗北の少年』ではありません。

 

 2A メロ。触れておきたいのはベースラインと、バッキングギターのカッティングですね。高域で鳴るベースが、要は一弦をしばきまくるベースが自分は恐らくめちゃくちゃに好きで、ところでベースって(アップテンポなロックの文脈だと)基本的には三弦と四弦をしばくじゃないですか。だから美味しいところでちょっと混ぜるくらいの使い方しかできてなかったんですけど、一弦とかを、これまでは。ところで「いや、もっと聴きたくね?」という気持ちもあり、2A メロ前半ではこれでもかってくらいに上の弦をしばいてもらいました、imanishi 君に。カッティングのほうも構想段階から入れることが決まっていて、というか、編曲面でやりたかったのは「これまで打ち込みでできなかったこと全部」で。さっきのギターリフのスライドもそうですけど、ギターのカッティングも、歪ませればどうにだってなるかもですけど、クランチ気味の生っぽさを打ち込みで出すのってめちゃムズじゃないですか。なので、MIRINN の M 担当であるところのマコトシアカ君には絶対にどこかでカッティングをやってもらおうという気持ちがあり、その気持ちが反映されて生えたのが 2A です。後半にある食いのところがめちゃくちゃお気に入りですね。『その痛みも怖くないよと』のところです(こういう食いの入れ方は PENGUIN RESEARCH の気持ち)。

 ここはやっぱりメロが BUMP の気持ちだったので、編曲も全体的に BUMP の気持ちでやっていました。BUMP やりこみ勢なら具体的に何がリファレンスになっているのか分かるんじゃないかなーってラインです。この部分を編曲するにあたってリファレンスへ特別寄せたとかも特になく、単に自分が BUMP の中でもよく聴いている楽曲なので、それで勝手に出力されてきたみたいな、体感的にはそんな感じです。『RAY』と『aurora arc』からそれぞれ一曲ずつ。BUMP やりこみ勢の皆さんはよければ当ててみてください(よければって何?)。ヒントは、上で言ったベースラインとカッティングギターです。

 

 2B メロ。ここが一番のお気に入りかもしれません。毎回毎回の目標として「これまでにできなかったことを少なくとも一つはやる」というのがあって、それが一番反映されているのはこの 2B メロ、具体的には最初の『遮って笑っても 切り取って黙っても』の部分で、それが何かというと「空白の活用」です。DTM を始めてもう九年くらい経ってる気がするんですが、いまでも思うこととして、曲の中に露骨な休符を置くのってめちゃくちゃに難しいなということで。なんていうか、全部の音がちゃんとまとまっていないと全然パッとしない感じになってしまうというか……。なので、そういう編曲の仕方をこれまではずっと避けていたのですが、でもたとえば PENGUIN RESEARCH の楽曲なんかを(たとえば『雷鳴』、『千載一遇来たりて好機』、『SUPERCHARGER』なんかを)聴いていると、そういう空白のある音楽ってめちゃくちゃにカッコいいんですよ。少なくとも自分にとってはそうで、だから前々から「いつかこういうのやりたいな~」という気持ちがあって。それでいて該当部分の歌詞は『遮って笑っても 切り取って黙っても』で、だったら音楽的にも遮りたいし切り取りたいな~と思って。なので、という話です。思うに、金物(オープンハイハット)のニュアンスがめちゃくちゃに大事な気がします。どのくらいずらして鳴らすのかと、どのくらい音を伸ばしてから閉じるのかの二つ。ここだけじゃなく全体的にそうですが、ここは特に金物のタイミングをめちゃくちゃに調整しました。

 最大のお気に入りポイントは 5 小節目から 8 小節目にかけての部分なのですが、ここのコード進行は

  IVadd9 - [ VIIm7 - III7 ] - [ VIm7 - II7 ] - [ Vm7 - I7 ] 

となっていて。自分がこういうコードワークをするようになったのは堀江晶太さんの楽曲を聴くようになってからだと思うので、ここもやっぱり imanishi 君の指摘通りだな~って感じなのですが。要は、メジャーとマイナーを二拍ごと交互に進んでいくんです、それも強進行で。ところで、この部分の歌詞は『自動でただ廻ってゆく 星空の下』となっていて。詳細を説明するには歌詞の話題に触れる必要があるので割愛するとして、ざっくり言うと「タイムリミットのことなんて知らない風で勝手に明けていく夜」という文脈がここにはあり。強進行のよく分からない謎パワーによって次々と進行していくコードと、全自動でぐるぐると回る星空をただ眺めるしかない一人称との心情が、だから結構良い感じにハマったな~~と自分では思っていて。「音と歌詞の調和」とかって自分はよく言いますけど。なので、この 2B メロがめちゃくちゃにお気に入りのパートだったりします。

 

 C メロ。2 サビ終わりからシューゲイザー地帯にかけてです。ここは BUMP OF CHICKEN の気持ちでも PENGUIN RESEARCH の気持ちでもなく、sora tob sakana の気持ちで作ったパートでした。というのも、C メロってめちゃくちゃ難しいなと曲を作るたびに思っていて。なんていうか、あってもなくてもいいような C メロを作りたくないっていうか、……必然性? 説得力? そういうのがきちんと備わっているべきだよなという気持ちが薄らあり、ところでそれってめちゃくちゃに難しいじゃないですか。だから作らないことのほうが多いんですよ、C メロ。『消えたポラリス』のサビ後フレーズを C メロと呼ぶなら、あの曲で作ったのがめちゃ久々って感じで。それより前となると『ここにいるよ。』の 2 サビ終わりくらいで、あの曲はもう三年くらい前になるので、だから本当に作っていません、C メロとかいうの。ところで今回は絶対に C メロがほしいというモチベーションがあり、というのも先述の通り、先にシューゲイザー地帯が生成されたんですよね。サビ終わりからいきなりシューゲイザー地帯へ繋ぐのは不可能、というか意味の分からないことになってしまうので、なのでその間を繋ぐ C メロが必要だったという話です。後述のシューゲイザー地帯の気持ちから、C メロは限りなく曖昧な藍色みたいな感じに仕上げたく。ところで自分にとってのそれは BUMP OF CHICKEN でも PENGUIN RESEARCH でもなかったので、そこで sora tob sakana の気持ちになり、sora tob sakana の気持ちになりました(反復表現)。りっか君が弾いてくれているギターリフにそのニュアンスが出ているかなという感じで、C メロ前半は本当にギターリフを聴いてほしいです(ところで、このフレーズは鬼ほど難しかったらしく、三月中はずっとマジ申し訳ない~という気持ちでした)。それと、ここは歌メロもギターもピアノも主音(移動ドでド)や下中音(移動ドでラ)をなるだけ叩かないように作っていて、そういった調性を決定づける音を回避することで曖昧さが出せるのかなという試みを組み込んだりもしていました。

 シューゲイザー。絶対やりたかった。制作の途中まではそんなことなかったんですけど、サビができて、A メロができて、B メロができて、歌詞の方向性もざっくりと決まり始めてきて、というくらいになって「これ、絶対にギター轟音パート必要だわ」という気持ちになり。それこそ所属サークルの人々は「破壊は愛」だとか「音割れは叫び」だとか、そういった発言をたまにしますが、自分はそれにかなり同意しているほうで。だから、このシューゲイザー地帯も一人称の感情表現として組み込んだものでした。感情の嵐っていうか、整理がつかずごちゃついたままの心を表現するのに適切なものって何だろうなと思い、そしてそれはギター轟音じゃんかということで。『閉じた目をまた青く染めてゆく』と歌っているように、『cor』という楽曲においてはそういった要素を音楽でも表現しないと意味がない! と思い、なのでシューゲイザー地帯が組み込まれる運びになりました。ここでも主音を回避してシ(移動ド)を持続させたり、ただ轟音にするだけじゃなく構成音についてはそれなりに吟味しました。ところで人間に弾けるのか? というポジションになっていた可能性が高いのですが、なぜかマコトシアカ君はちゃんと弾いていました。なんで?

 

 

 以上! 長くなりすぎたので歌詞の話はまた今度にします(あれば)。今回、ミキシングとリズム隊の構成をめちゃくちゃに頑張ったので、その辺りも注目して聴いてもらえると嬉しいです~~~。