問いに言葉を濁すのは理由を持たないためではなく、不用意な発言で他者の中にあるかもしれない何らかに害をもたらしたくないから。もちろんそうでない場合もあるけれど、とはいえそうである場合もある。
以前にも何度かブログで書いたことがあるけれど、フィクションにおいて示される悪意的な態度に触れることが本当に苦手。とはいえ、これはグラデーションであり、ケースバイケースでもある。たとえば、どこかの町の高校生を無作為に拉致して、一室に閉じ込めた上でデスゲームをさせるみたいな作品があったとして。主催者の動機が「極限状態におかれた人々のみせる殺人劇は面白いから」みたいな非倫理的なものであったとして。でも、それは別に自分の中の『悪意的な態度』に大きくは抵触しない。それがグラデーション、あるいはケースバイケースの意味するところであり、具体的には、その悪意が自分たちの日常に近しいものであればあるほど苦手、というか受け付けられなくなる。フィクション内のデスゲームの主催者に対して何も感じないのは、この現実世界においてそのような衝動を抱え、さらにそれを実行に移すような人間はほとんどいないであろう、と自分が考えているから。もちろんこれはただの主観。実際には自分が思っているよりもずっとたくさんいるのかもしれない。けれど別にそんなのは関係なく、誰だってそうだろうけれど、「それが自分の目にどう映るか」でしか判断できない。虫を好きな人がいれば、虫が嫌いな人もいる。好きとか嫌いとかじゃなく、そもそも目にするのが嫌だって人もいる。そういう話をしている。
そんな可能性があると考えているわけではないものの、万が一にでも作者の人の目には触れてほしくないので作品名はぼかすけれど、自分がずっと読んでいる漫画がある。刊行されたものはすべて購入しているし、何なら web 上で連載されている最新話を毎話ポイント課金して読んでいるくらいではあった。ところで、割と最新話近くのストーリーなのだけれど、本当にこの世の悪の塊みたいなキャラがストーリー上で出てきて。まあ、なんやかんやあって最終的には正義の鉄槌が下されるのだけれど。でも、そんなのは関係なく、そのキャラクターがどうにも受け入れられなくて、自分は続きを読むことをしばらくの間やめている。いや、本当のことを言うと、登場してからしばらくはまだ読んでいた。正直まあまあしんどかったけど、そうであってももとよりかなり好きな作品だったし、続きは気になるから。でも無理だった。苦手なものは苦手。無理なものは無理。難しいものは難しい。
あるいは昔、あらすじを一読して面白そうと思い、ためしに購入してみた小説があった。ハードカバーだったから、たぶん 1,500 円か 2,000 円くらいの。結論から言うと、最初の 20 ページくらいまで読んで、そこから先はもう読めなかった。いまは部屋のどこかに眠っている。主人公は学校へ通う女の子で、自宅のリビングにて兄と会話をする場面だった。兄は家庭教師だか小学校の先生だかで、生徒の家に家庭訪問へ訪れた帰りだった。その際、手土産に持たされた何らかのお菓子(たしか)を、兄はリビングのゴミ箱へそのまま捨てた。好きじゃない、みたいなことを言って。この作品について自分は何らかの論評をしたいわけではなく、そもそもそんな資格は持ち合わせていない。だって、そもそも最後まで読んだわけじゃないし、それに著者の人が想定していたであろう核心に触れようとさえしていない。だからこの作品について自分が持つ言葉はないけれど、ただ純粋に、自分はその描写一つでそこから先のものに触れることを断念した、というだけのこと。そのレベルで、フィクションの中の悪意を受け入れることができない。そういう人間もいる。
どこかのタイミングで「某番組に似ている」との紹介を受けた時点で、そのコンテンツは自分には決して向いていないと判断することができた。好きとか嫌いとかじゃなく、そもそも目にするのが嫌だって人もいる。面白いとか面白くないとかじゃなく、そもそも向き合うことができないって人もいる。だから、どれだけ熱心に勧められたところで拒絶する以外の択はない。明らかな地雷に対しては不干渉を貫くことが、およそ波風を立てないという点で、選ぶことのできる範囲においては常に最善だろうから。