後悔ではない何か

 

 後悔というわけではないんですけど、何となしに過去を振り返って「あのとき、自分はどうするのがよかったんだろう」と、それでも考えることは結構あって。とはいえ、どれだけ考えてみたって大局的には自分の結論が変わることはなくて、どうもこうもなく、その瞬間へ至るまでに十分な猶予が与えられたとしても、結局は今へ繋がるんだろうなあって、そう思うことがほとんどですけれど。ただ、「もっとやりようがあったんじゃないか」って、そう思うことも同じ数くらいあって。ゴールが同じだとしても道筋は変えられたんじゃないかって。通る道が変わっていれば、ゴールの向こう側に続く景色も多少は変わっていたりしてたんじゃないかなって、そういう。なんていうか、そのうちの一つをとある作品を読んでいる最中に思い出したっていうか、今回はそういう話なんですけど。その、作中のとある人物が同じ部活の先輩に告白をするんですよ。まあ振られるんですけど。そのときの理由が「いまは部活に集中したいから」というような内容で、しかし後になってこれが嘘であることが発覚して……っていう。それで、その話を聞いていた登場人物の一人がめちゃくちゃに怒るんですよね。具体的な台詞はさておき要約すると「勇気を出して告白してきた人間に嘘を吐くのは間違ってるだろ」みたいな感じで。作中だと一連の話はそこで一区切りで、かたや読み手の自分は「だよなあ」と思うなどして。それが先に言っていた後悔ではない何かですけれど。高校まではともかく大学に入ってからの自分は人間関係もそれなりにそれなりだったので、告白だなんだってイベントが皆無だったというわけでもなく、断ったんですが。初めに言っていた通り、その選択の正当性を疑っているというわけではなくて、仮に人生を 100 万回やり直したとして 100 万回とも同じ結果なんだろうなと本心から思っていて、ただ、方法がよくなかったというか。その一点だけは割とずっと引きずっていて、なのでその作品を読んでいる最中に、なんていうか、めちゃくちゃ責められてるような気持ちになって、ただの被害妄想ですけれど。いやでも、それはそうだよなと思って。というか反省して。反省はこれまでにし尽くしたつもりだったんですけど、自分と関係のない他人の出来事として客観的に捉えてみると、これはたしかに怒られても文句の言えない、というか自分も第三者の立場なら同じようなことを(言いはしないかもしれないけど)きっと思うだろうな、と思って。なんか、そんな感じのアレもありつつだったので、もうめちゃくちゃな気分のままで読み進めていました。……たしかに、嘘を吐くのは良くないことだよなと思ってはいて、そう思っているからこそ未だに引きずってるんですけど、でも、これもさっきのと同じように、何度やり直したところで自分は 100 万回分の嘘を吐くだけなんじゃないかなあって気がしていて。というのも、その状況下でどういった行動を起こすのか正解だったのか、自分は今でもよく分かっていないままだから。なんていうか、思っていることがそのままで伝わればいいのになって思うことが結構あって。自分以外の他人へ何かを伝えるためには言葉を頼る必要があって、でも自分は言葉をあまり信用してなくて、なんだか曖昧じゃないですか、言葉って。「興味がないから」は本当のことだけど、でもこれだけだと嘘になる。自分がどういった意味で『興味がない』という言い回しを用いているのかだとか、あるいは『興味がないから』と結論との間にある些細なギャップだとか、そういった全部が欠けていて。だから言葉って苦手なんですけど、だけど自分たちの主要なコミュニケーションツールといえばこれしかないから、頑張って探して。でも、見つかんなくないですか。その、相手のことを無下にするに足る言葉なんて、どこにも。本当のことを伝えるとして、どれだけ多くの言葉を選んだところで相手を傷つけるだけだろうなって気が自分はどうしてもしてしまって。それならたとえ嘘だとしてもかすり傷程度の言葉を選んだほうがいいんじゃないかと、まあ、当時の自分はそのように考えたわけで。でも、今でこそ思うこととして、それって悲しんだり傷ついたりする権利を相手から一方的に奪うことと同義なんだなと思って、しかもそうとは自覚させないうちに。なんていうか、それってめちゃくちゃ卑怯だなと思うし、失礼だなとも思うし。全部が全部、今となってはの話でしかありませんけれど。というところまで考えはしても、それでも言葉は見つかんないし。だから「どうしたらよかったんだろう」って、そんな感じのことを考えたり考えなかったりして。そのたった二文字を伝えることがどれだけ難しいかって、そんなことはちゃんと知っていたはずなのに。あの一瞬をやり直したいだなんてほんの一度だって考えたことはありませんけれど、ただ、だからこそ他人の気持ちにもっと正面から向き合える人間にならなきゃいけないって、後悔ではない、その思いだけはどこまでも引きずっていくことになるんだろうなって、死ぬまでずっと。