2022年3月ライブ初日

 

 これを書いているいま、自分がどこにいるかというとそれは京都大学構内に在る吉田寮食堂で、時刻がいつかというと 2022/03/05 の 6:45。午前の。今日明日にかけて行われるライブイベント(所属サークル主催)のために運び込まれた機材を見張る、いわゆる泊まり込みに来ているという感じで、食堂内に残っていた他の数人の寝息が聞こえてきたりする。あとはすぐそこにあるキッチンの水音と、朝を告げる鳥の鳴き声も。どうせ当日リハなので早起きする必要があり、またどうせ本番前には練習をするので、ということで入った泊まり込みだったけれど、こうして久しぶりにライブ前の空気にあてられたいま、何となく思うところがあるなとなり、そしてこれを書いているという流れ。この記事が公開されるのはライブ初日が終わってからのことになるだろうけれど、本番の熱を吸ってしまう前に残しておかないといけないことが少しあるような気がする。

 ライブ初日。とりあえず本題から書くと、サークルの下回生であるところのなずしろさんの出演枠にベースで参加させてもらうことになった。自分は本来、一日目に出演する予定ではなかったのだけれど、どうしてこうなったかという経緯めいたアレと、それらに付随する諸々を日記的に残しておきたいという話で、そのためには 03/02(水) の昼過ぎまで遡らなくてはいけない。

 その日、つまり 03/02(水)、これとは別の予定でスタジオへ入っていて、その練習が昼過ぎに終わったため、集まったメンバーで遅めの昼食へ行こうという話になった。スタジオから歩いて 30 秒くらいのところにある某チェーン店へと足を運び、そこでなんやかんやをあれやこれやと話した後、店を出ると雨が降っていて。すぐに天気予報を確認して、曰く数時間後には止むらしい。ところで自分は楽器を持っており、自分は傘を持っておらず、それほど激しい雨でもなかったけれど、とはいえ楽器類を濡らすのは賢明ではないという気がして。どうしたものかと考えていた矢先、その場に居合わせたメンバーの一人であるところのソニオルさん(サークルの一つ上の先輩)が声を掛けてくれて、「いまからまたスタジオ入るんだけど、よかったら一緒に来る?」。その提案があまりにも渡りに船すぎたので、邪魔にならないなら、ということで混ぜてもらうことにした。思うに、この日もし雨が降っていなかったとしたら、自分は初日のライブに(出演者として)は参加していなかったはずで。予報外れの雨もたまにはいいことをするらしい。

 なずしろさんとソニオルさんが何らかをやるらしい、という情報はそれよりも前から風の噂でキャッチしていて、ところで何をするのかは想像の域を出ていなかった。とはいえ楽器の準備について話していたのを知っているから、なずしろさんが歌ってソニオルさんがギターを弾くとか、そういうのをやるのかなと思ってはいて、スタジオ内の休憩スペースで話を聞いた限り、どうやらそれは正しかったらしい。『さよならライカ』。去年の秋 M3 で頒布されたソニオル 1stAlbum の表題曲。それを一緒に合わせるための、そのためのスタジオ練習が自分が雨宿りに誘われたそれだったということ。ああ、そういえばなずしろさんはあの曲がめちゃくちゃ好きだと一時期言っていたなと思い出し。なるほど、ソニオルさんを送り出すというのならこれ以上の楽曲は他にない。

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 スタジオ内の休憩スペースで屯している最中に、ソニオルさんへお願いしてコード譜をみせてもらった。せっかくスタジオへ入るのだし、ルート弾きくらいならその場でもすぐにできるかなと思って。実際は、キメありまくり転調ありまくりですぐには覚えられなかったけれど。だから、出演云々というアレは別にその場で即座に思いついたことというわけでもなく、最初は、その日のその時間だけ何となくで混ざれればそれでいいという気持ちだけだった。

 でもまあ、スタジオへ入って実際に音を鳴らしてみて、そしたら変わってくるものもあるよねという話で。全員で音を鳴らして一つの音楽をやるのって、それ自体が本当に滅茶苦茶楽しくて。あとはそもそもの話、めちゃくちゃに良い曲で、『さよならライカ』が。自分は CD で持っているから(たしか)11 月ライブ後くらいにはフルを聴いていたのだけれど、その日スタジオで改めて聴いてみて「やっぱめちゃくちゃ良い曲じゃん!」になって。スタジオで過ごしたのはたったの一時間だったけれど、全部終わって片づけをする頃には「この曲、自分もベースで弾きてえ~~~~」という気持ちがかなり強くなっていた。絶対に楽しくなると思ったから。

 とはいえ現実的な問題もあって、まずもって自分はベース初心者だという話。楽器それ自体は昨年の八月頃には入手していたけれど、ちゃんと触り始めたのは年末に差し掛かってからのことで、だからだいたい三、四ヶ月分くらいの経験値しかなく、その間だって別に毎日練習していたというアレでもない。ところでライブとなればできる限りの完成度を目指したほうがよいという自戒があり、まあ最悪全部ルート弾きでなんとかなるのだけれど、それは本当にどうにもならない場合の話で、いわば苦肉の策的な。だからベースで参加するとして、とすればそれなりの練習量を稼がなくてはならないという見込みがあるのだけれど、加えてこの曲、めちゃくちゃにベースが動くという罠があって。あんいちさんという、本職ベーシストの人が考案し録音したフレーズとのことで、意識して聴かなくても「めっちゃ動く~~~」と気持ちよくなるくらいにはベースが暴れている。というので、それだけでも厳しくね? という気持ちにもなる。そのうえ一番大きかったのがライブ当日までの残り日数で。そのスタジオへ入った日を含めても練習に使えるのは三日くらいしかない。ヤバすぎる、普通に考えて。という諸々を考慮し、言い出すかどうかを迷ったり迷わなかったりしているうちにスタジオを出て。エレベーターを降り、外の雨は止んでいて。自転車置き場の手前くらい、やっぱりソニオルさんが声を掛けてくれた、「ベース弾く?」。返す言葉に迷うはずもなかった。

 帰り道のほうが、考えていたことが記憶に残りがちなのかもしれない。個人練でスタジオへ入った帰り、夜の 11 時くらいに鴨川沿いを歩きながら『さよならライカ』を聴いていて。それくらいのことで泣いたりするわけもないけれど、なんか、思うところはたくさんあって。卒業。卒業だよなあ、みたいな。最後のサビに、フル音源を聴いていない人には伝わらないかもしれないけれど、「ありがとう」ってフレーズの入るタイミングがあって。そこがなんか、色々と。そういうシーズンだから下回生の人たちにも言われたりしたけれど、そう、もう五年も経ったんだよな。びっくりする。一回生のときには一緒に曲を作ったり、三回生のときには一緒のバンドで演奏をして。そして五回生になったいま、その両方を再回収したりもして。これ以上のことなんてないと思っていたけれど、いや、全然だった。できることなんてまだまだ残ってたんだなって気持ちになって、時間はもうそれほど残されていないけれど。みたいな。そういうのが重なって、歌と。完成度を上げることも大事だけれど、楽しんでやるのがやっぱり一番だよなという気持ちを再確認したりした。ソニオルさんを成仏させる、もとい送り出すための時間なんだし。ハッピーエンドで終わらせたいよね、できることなら。

 昨日、これは本当に昨日でライブ準備が終わった後、ソニオルさんに誘われて最後の練習へ行った。22:00 から一時間だけ。『さよならライカ』のオケを流しつつ、二人で音を合わせてみて。不思議な気分だった。五年も一緒のサークルにいて、その間には何もなかったのに、まさか卒業間際にもなって二人でスタジオへ入って音楽をするなんてことが起こるんだなって。割と頻繁に弾き間違えるし、それにフレーズがたまに頭から抜けたりもして、完璧とは程遠い(もともと無理なのは分かってたけど)それでもただただ楽しくて。もっと早くこれをやっていればよかったと、少しだけ思った。ほんの少しだけ。

 ここまでライブ前に書いた内容。残りはライブが終わってから書く。最後まで頑張ります。

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 ライブが終わり、自分がどこにいるかというとそれは京都大学構内に在る吉田寮食堂で、時刻がいつかというと 2022/03/06 の 7:41。午前の。ライブ自体は今日も、つまり二日目も行われるのだけれど、上に書いたような一連のそれは昨日のステージで一段落ということになった。無事に終わってよかった。いや、途中であり得ないノイズが乗ってベースフレーズが頭から消し飛んだんだけど、二番サビのところ。でも、ここ数日の練習の成果はちゃんと出せた気がするし、それになにより本当に心の底から楽しかった。たったの四分ちょっとだけど、そういうの、なんていうか、まるで永遠みたいに錯覚する。どこにだってあるような、小さな永遠。これはまだ世界には公開されていない曲だけれど、つい最近そういう歌詞を書いていたというのがあって。それはたとえば昨日のような、あの数分間が正しくそう。できればいつまでも終わらないでいてほしいけれど、でも、ちゃんとした終わりが来るからこそ、だからその一瞬を永遠と呼んでしまえるんだよな、と思ったり思わなかったり。いや、マジで楽しかったな。これはライブが終わってから人と話していたことだけれど、あの日に雨が降っていて本当に良かったと思う。雨が降って、それ自体に「良かった」と思ったことなんてこれまでの人生で一度もなかったけれど。24 年目にして見つけた、ちゃんと。

 

 昨日も本番だったけど今日も本番で。感傷に浸るのはまだちょっと早いよねって感じがする。今日のステージも頑張ります、ベースと歌。