20220213

 

 あと二十日くらいか、と思う。自分はといえば、なんというか、いわゆる先輩後輩といった上下関係から離れた場所で育ってきた感があって。自分の通っていた中学校にも部活動と呼ばれているものがあって、いまでも覚えている。公立中で、その校区に住む小学生はだいたいそのままリフトするから、小学六年生のとき、中学校で実際の部活動を見学するという行事があった。その前後辺りから、教室の中では専ら部活動に関する話題ばかりが飛び交うようになった。ただ、これは当時から不思議に思っていたこととして、クラスメイトの大半は先輩・後輩という関係性に何かしらの憧れを持っているらしく、一方の自分にはそういった感覚がほとんど全くなくて。だから、「部活動なんて面倒そうだな」としか思わなかったというのもあり、結局、中学では終礼と同時に帰路へつく、いわゆる帰宅部を三年間務めることになった。そしてそれは高校でも同じことだったけれど、しかしまあ、高校は部活動なんてあってないようなものだったから、校内をみても特に珍しいことじゃなかった。いずれにせよ、とかく自分はそういった上下関係に縁のない場所で過ごしてきた人間で、だから、自分の辞書に『先輩』という言葉が登録されたのは大学へ入ってからのこと。そういうわけで考えている、あと二十日。たしかに、これまでにもあった。なんていうか、いわゆる先輩方の卒業という類のもの。少なくとも二人、自分にとってかなり大きな人が卒業していて、そのときだってまるで穴が空いたみたいな、そんな感覚に苛まれたり何だったり。あれやこれやがしばらく続いたような続かなかったような。それぞれ三年前と四年前の出来事だし、あまり鮮明には思い出せないけれど。その二人は、自分がサークルに参加した段階で既に M1、M2 だったということもあり、だから一方とは一年、もう一方とは二年しか接点がなかったわけだけれど、それにしたってまあ結構な衝撃で。そこそこ。卒業イベントが終わって、新学期が始まって、いつも通りに例会の教室へ行って。これまでと同じ光景の中に、だけどあの人だけが来ていない、みたいな。知りあった瞬間からさよならが始まっているって、そんなのは当たり前のことだけれど。でもさあ、って。そんな簡単に割り切れるはずがないし、何にも失くしてなんかいないのに、まるで何かを失くしたみたいな。数字で測ることができるものでも、仮にできたとして、そうしていいものではないだろうけれど、三年、あるいは五年が経ったらしい、知りあってから。だから、流石に想像がうまくいかない。なんていうか、たとえば、次の四月の何気ない休日がどんな風に過ぎていくのか、みたいなこととか。五年って、いやだって、人生の五分の一くらいじゃんか。たしかに、その五分の一の全部にその誰かがいたかと言われればそんなことは決してないけれど、でも、そういう問題じゃないし。いや別に、ネガティブになってるとかでもなくて、なっていないわけでもないけれど、でも必要以上にそうなっているということはなくて。なんだろうな、……準備? 水の中へ急に飛び込むと危険だから、まずはシャワーで身体を慣らしておきましょう、みたいな、ああいうの。そういう時期に入ってきてるなと思うことが増えた、二月になってからというもの。一昨日、正確には昨日だけれど、大学内では一二を争うくらいに仲の良かった(と少なくとも自分は思っている)相手が京都の家を引き払って、つまり京都を離れて。最後のときには立ち会えなくて、なんなら最後に会ったのは一二月なんじゃないかという気がする。昨日の朝、目を覚ましてから「無理をしてでも会いに行けばよかったな」と思いつつメッセージを飛ばした。また会おうって、現実味なんか望めなくたって約束が一つあればいいと思う。昼。逆に、本来ならこの時期の京都にいるはずのない相手と会った。大文字山へ登って、山頂ではないけれど見晴らしのいい場所で、特に何を話すこともなしに一時間ほど座り込んで。お別れを言いに来たと言っていた、たしか。自分にじゃなくて、自分の知らない誰かに。朝の、あるいは前日のことを思い出して、自分は言えなかったから。ただこれまで通りではなくなるというだけで、二度と会えないわけじゃない。わけじゃないけれど、でも。夜、鴨川沿いに座りながら。数人が揃って席を外して、残された四人のうち自分以外の三人が何やら話し始めて。それとか、あとは川の流れる音とか、そういう全部を頭の隅で聞き流しながら、自分はといえば対岸を整備する信号機をぼけーっと眺めていて。横断歩道の赤。幹線道路の青。街灯の白。イタリアの色だなーと思いつつ、こうやって川沿いに座りながら「イタリアの色だなー」と思いながら信号機を眺めるの、何年か前にもやったなあと思い出して。でも、こんな夜ももうじき終わるんだよな、と思って。具体的には、あと二十日くらいで。みんないなくなっちゃうんだな。なんていうか、そんな風に思わずにはいられない一日だった、昨日、2022 年 2 月 12 日。