ビニール傘

 

 ビニール傘。コンビニで傘を買うという人生初イベントに遭遇したのが半年前。電車が止まるんじゃないかってくらいに、あり得ないくらいの大雨が降っていた日。折りたたみ傘は持っていたのだけれど、流石に対処できなさそうだったので購入という流れ。思いのほかしっかりしてるんだなと思った、造りが。普通に何年も使えそうな感じだし、雑な扱いさえしなければ。まあ、あとは置き忘れも。とはいえ傘をどこかに忘れてきたという経験は、覚えている範囲では一度もないので、台風の真っ只中に持ち出したりしない限りは大丈夫だと思う。今朝、雪が降っていて。というか、いまも降っている、たぶん。涔々と。雨粒と違って雪は音を立てないから、だから扉を開くまでは気づいていないということがほとんど。そのたびに驚く。曲がり角、好きなんだよな、もう何百回も書いてるけど。嘘で、両手で足りるくらいしか書いてないと思うけど。みえないじゃんか、曲がり角の先って。だから、その光景を目の当たりにするたびに「この先に何があるんだろうな~」って気持ちになれる。散歩中に気になる路地と出くわして、なんだか曲がりたくなってしまうことも、言ってしまえば同一直線上にある感情というか。空想の自由? 曲がり角の向こうでは魔女がお茶会をしていてもいいわけだし、そう思うだけでも楽しいというか。雪も、だから同じような感じがする。外へ出るまでは気づけない。今朝、買い物へ行こうと思って支度をして、靴を履いて鍵を開けて。そしたら雪が降っていた。一瞬だけ面食らって、「あー、雪だ」みたいな。迷う。傘を差すときと差さないときとがあって、雪の日。明確な境界線があるというわけではなくて、何となくの気分で。それほど多く降っていたわけでもなくて、ちょっとした紙吹雪みたいな、だからどちらでもよかったのだけれど。とはいえ今日は傘の気持ちだったから部屋へ戻って、それからビニール傘を手に取った。雨具は好きじゃないけれど、傘は嫌いじゃない。ビニール傘を買ってからは特に。透明で、雨の跡がみえるから。雪。雪って、雲が然程厚くなくたって降ってくるものらしい。狐の嫁入りって言葉もあるけれど、雪はなんて言うんだろう。風花、……は違う気がする。晴天ではないから。特別な名前なんてないのかも、それでいいけれど。鈍色の雲、透ける太陽。透明に残るまるい水滴。きらきら。ほんの些細な、一瞬の。そういう欠片が、断片が、色んな場所に隠されているんだよなと思う、この世界って。