集団自殺

 

 

 言いたいことがあって、つまり書きたいことがあって、そのために深夜三時にも関わらずwordを立ち上げたわけですけれど、いざ何かを書こうとするとどこから話せばいいのか分からなくなってしまって、結局こんな書き出しになってしまいました。話したいことがないわけでは決してなくて、話し尽くしたという感覚もそれほどなくて、だからそういう意味で困っているわけではないんですが、何て言うんでしょうね、多分自分でも何が言いたいのか分かってないんだと思います。ポケットの中を弄っているような感じです。そこに何かが入っていることは分かるけれど、でもそれが何なのかは分からないというような、別にその正体を知っていなきゃ困るということもないけれど、だけどこの目で確かめないと何だか気持ちが悪い。そんな感じです。

 

 河野裕の階段島シリーズには、一〇〇万回生きた猫、もといナドという人物が登場するのですけれど、このシリーズを初めて読んだとき、僕は彼の設定を面白いなと思いました。彼はどうやら二人以上の人と同時に会話することが出来ないらしく、というのも自分を自分自身として定義したままでは他人との会話が困難なようで、彼はこれから誰と話すのかによって異なった自分自身を定義してます。主人公の前に現れる彼は一貫して「一〇〇回生きた猫」であろうとします。そういった彼のスタンスを、当時の僕は本当に面白いと感じて、いったいどこからこんな設定を思いつくんだろうと思ったものですけれど、最近になって何となくその感覚が少しずつ分かってきたような気がして、というか気づいていなかっただけできっと随分昔から知っていて、大勢の人の中にいると自分が何なのか解らなくなってくるようなあの感じ、あれのことなのかなあと思ったり思わなかったりします。多分違うとは思いますけど。僕と付き合いの長い人は知っていることだと思うんですが、僕は基本的に自分から話すことをしなくて、正しくは話しかけることをしないんですけど、誰かと二人きりだと割と普通に話したりもして、そんな自分のあれこれと何となく似てるなあとか思わなかったり思ったりしています。なんか、謎に盛り上がってる空間とか、ああいう場所でどういった立ち振る舞いをしたらいいのかが解らなくて、いや、別に溶け込みたいとは露ほども思っていないんですけど、何なんですかね、こう、よく分からないですよね、ああいうの。多分嫌いなんでしょうね。もうすっかり手遅れというくらいには。

 

 自分勝手だよなあ、と思うんですよね。我儘。幼稚。どれも自分のことです。大人になるって何なんでしょうね。二〇歳を過ぎたら神様が認定してくれたりしませんかね。貴方はもう十分に大人です。夢なんて見ずに堅実に生きていきましょう、みたいな、そんな感じのお節介な判を押してくれたりしませんかね。そしたらきっとすぐに死ねるんだろうなと思うんですよ。物理的にじゃなくて、精神的に。何もかも諦めて、馬鹿で麻痺した日常に埋もれて、空の青さなんかも何もかも綺麗に忘れてしまって、そうやって生きていけるんだろうなと思うんです。お前はもう夢なんて見れないんだぞって、さっさと突き放してくれたらいいのに、なのに中途半端な距離を挟んだ向こう側に飴玉みたいな希望が一つ二つ転がっていたりして、かといってそれを必死に追いかけようとするわけでもなくて、そんなすぐに走らなくてもいつかは届くだろみたいな、そうやってまた一日また一日と現実的な死へ向かって歩いていく日々は、いったい何なんでしょうね。だって空は今日も青いじゃん、みたいな。別に今すぐそれに届かなくたって、あいつはずっといなくならないから大丈夫だよ、みたいな。そうして延々と迷い続けるくらいなら、いっそ空なんて曇ったままでいいですよね。電線もいらない。星も見えなくていい。自分だっていなくていい。名前の海に溺れたままで、有象無象の部品として生きていけたらもうそれで構わない。自暴自棄と同じような、だけど本当はすっかり真逆の、そんな気持ちになりませんか?

 

 

 大人になるって自殺とほとんど同義だと思うんですよ。そんな感じがしませんか。僕はします。嫌なことを嫌だと思う自分を殺して、良いことを良いと思う自分を殺して、そのことにいったい何の意味があるんだろうと思うんですよね。なんか、そんなことばっかりじゃないですか、ここしばらくずっと。僕の周りが、とかじゃなくて社会が、世界が。どうしてそんなことを、と叫びたくなるようなことばかりじゃないですか。どこもかしこも、酩酊した享楽色に染まっているような、そんな感じがするじゃないですか。だから、もうそろそろよくないですか。こんなことを言うのはあれですけど、疲れてるんですよね、何か、そんなこんなが続いてて。何だろうな。本当に悲しくなってくる。悲しい。だからずっと疲れてる。どうしてこんなにもつまらないんだろう。どうしてもっと良くならないんだろう。世界はもっと綺麗になるはずなのに、どうしてこんなにも。その言葉をずっと繰り返している。何年も前から。空はあんなにも透明色で、戦争がなくなる理由なんてそれだけで十分だと思うんですけど。何ともなりませんかね。なりませんよね。知ってます。だったら、もうそれでいい。それでいいから、もう十分に痛いほどに解ったから、いっそ一思いに殺してくれ。そんな気持ちになりませんか?