他人の歌詞を勝手に読むやつ1

  

 前々から吉音(僕が所属しているサークル)の人たちが書いた歌詞を自分がどう読んだか話すやつをやりたいなと考えていて、それは自分が歌詞を書くようになったからということもあるんですが、そんなわけでついに勝手にやることに決めました。その曲を聴いて自分が得たことをアウトプットするという側面も含めて、決して無意味ではないんじゃないかなあと思ったので。

 

 

冬の空に祈りを / コサメガ

www.nicovideo.jp

 

【歌詞】

いつもの道

色づく息

予感に騒ぐ街並み

 

かじかむ手で

ハンドル握りしめ

もうそこまで来てる

 

上り坂グッとペダル踏みしめ

静かに迫り来る向こう側に

雲居に映る明日に祈りを

遙か風が見える

 

青すぎる青空に

巡る世界の冷たさに

立ちすくみ 凍えてしまわぬように

真っ白な 感覚を

やがて溶けゆく輝きを

この胸に刻み付けて確かめたい

 

ビルの窓に

きらめく月

ミラーに映る裏路地

 

ぼやける目で

街灯見下ろして

もう先は見えてる

 

下り坂フッと投げ出す足を

さらっていく風の止む前に

散る残り香に昨日を探すも

夜の闇に消える

 

遠ざかる星空に

眠る世界の静けさに

意味も無く 見とれてしまう度に

繰り返す選択も

やけに見慣れたこの道も

あの星に見る夢に忘れたくなる

 

最高速度で受ける風を

冷めるほどに感じるの熱を

染み込んだ匂いを吐く息を

あきびんに閉じ込めて

「これが私の全て」なんて

こぼした あの冬の夜

 

消えかけの白線に

残るはずもない轍に

気を取られ迷ってしまわぬように

方角のない地図を

どこへも行けないとしても

いつまでも抱きしめていられますように

 

青すぎる青空に

巡る世界の冷たさに

立ちすくみ 凍えてしまわぬように

真っ白な感覚を

やがて溶けゆく輝きを

この胸に刻み付けて確かめたい

 

 

【コメント】

 この曲はTwitterでも一度触れたんですけど、やっぱりちゃんと書いておきたいなと思ったので、まず最初にまとめることにしました。

 

・一番Aメロ(「いつもの道~もうそこまで来てる」)

 この導入部分は、僕が吉音へ所属してからこれまでに見た吉音曲の歌詞の中だと、一二を争うくらいには好きです。こういうの、本人は何も考えずに書いてたりするんだろうなあ、と思うとそれだけで鬱になりますよね、本当に。

「いつもの道」と断ってから「色づく息」、「予感に騒ぐ街並み」と続くので、その「いつも」が徐々に、それも比較的良い方向に変わり始めているんだな、という予想がまず立ちます。よく見かけるやつです。個人的に好きなのは「色づく息」という言い回しです。これ、まあ冬の唄なので多分吐息が白くなることを言っているのだろうとは思うんですけど、「色づく」という言葉には(個人的に)肯定的な変化のニュアンス(有体に言えば期待感)があるような気がするので、それが後に続く「予感」が少なくとも悪いものではないことを裏付けているような感じがあります。この辺は言語センスの問題だなあ、という感じですね。いい。

「かじかむ手で ハンドル握りしめ」の部分までで、大体の情景を頭の中に思い浮かべられるのがすごいですよね、本当に。通い慣れた道があって、白い息を吐く自分がいて、周りには変化の到来に浮かれる街があって、もしかしたらクリスマスの時期みたいなイルミネーションとかあったりもするんですかね、冬ですし。そこで自分は自転車(この時点ではもしかしたらバイクかもしれない)に乗っていて、別に手を添えておけばいいハンドルをわざわざ握りしめている、そんな状況。これがたったの三一文字なんですよね。意味わからなさすぎ、短歌か? 歌詞は最初のうちにどれだけ世界観を固定させられるかが勝負だと個人的には思っていて、それは状況を説明することであったり比喩を用いることであったり、あるいは言葉選びを少し尖ったものにしたり、方法は様々ですけれど、しかしその点で言えば、この曲の冒頭五行は最適解だなあ、と思いました。

「もうそこまで来てる」がトドメの一文です。これ、読んだ人によって何がそこまで来てるのかというのが変わるんじゃないかなあと思うんですけど、どうなんでしょう。まあ何にせよ、この一文は本当にどこから出てきたんだろう、という気持ちでした、最初は。他に何か文章を入れてみようとしても、代案が全く思いつかないんですよね、この部分。自分の中にある指標として、それはつまりbest possibleを意味するので、コサメガ君すごいなあ、って感じです。いや、ホントに。

 

・一番Bメロ(「上り坂~遥か風が見える」)

 一番Aメロの「ハンドル握りしめ」からちゃんと繋がっているのがいいですよね。

 続く「静かに迫り来る向こう側に」が現実世界から内面世界への橋渡しになっているような気がします。気がするだけです。ここら辺、まだふわっとしか呑み込めていなくて、なかなか説明するのが難しいというか、何というか。自転車に乗って、上り坂を上って、その先を目指しているわけですよね。そうすれば当然いつかは上り終えてしまうわけですけれど、そのことを「静かに迫り来る」と表現しているのがなんだか不思議ですよね。多分、何も考えずに書いたんだろうなと思う(これで意図的に書かれた文章だったらマジで最悪すぎる)のですけれど、本人にとってはそんな風に見えていたんだとしたら、それは本当に面白いなと思ったり思わなかったり。

「雲居に映る明日に祈りを」is 何? なんもわからん。まあ、でも、何なんだろ。多分、この曲の根幹部分に青空とか星みたいなファクターがあるんだろうな、と思います。後述のサビでも出てきますし、何なら片方は曲名にも書いてあるし、雲の隙間から見えるものって、青空とか星くらいしかなくないですか(あとは飛行機とか)。それらを「明日」と同一視している感じ、なのかなあ?(適当) それと、ここでの「祈り」って一体何なんでしょうね。分からないことだらけです。

「遥か風が見える」は本当に何も解っていない。後のほうにも「風」が何度か出てくるので、そこと見比べてみたら何か掴めるかなあ、と現時点ではぼんやり考えています。ここら辺は書いた本人がその言葉にどんな印象を抱いているかという話になってくる気がしますね。

 

・一番サビ(「青すぎる青空に~確かめたい」)

「青すぎる青空に」、いいですよね。大好きです、この表現。Twitterにも全く同じことを書きましたけれど、「~すぎる」という表現には過多というか過剰というか、一般的なそれから逸脱しているという印象を受けます、僕は。勿論、程度の大小はありますけれど。それを踏まえて「青すぎる青空」ですけれど、いや、青空が青いのは当たり前やんけ、という話です。それをわざわざ「青すぎる」と言っているということは、語り手はこの「青空」をある種特別視しているのだろうな、という推測が生じます。修飾技法的には誇張法? これは別に批判とかじゃなく単なる比較として持ち出すのですけれど、「青すぎるこの空」と「青すぎる青空」だとやっぱり言っていることが少しずれているという感じがします(ずれているというよりは、離れている?)。前者はただ単に空が青いという事実を言っているのか、あるいは主観的にモノを語っているのか、どっちつかずという感じがありますけれど、後者だと、青空が青いのは当たり前、という前提条件があるので、主観がバリバリに混じってるなあ、という気がします。まあでも、これも個人的な感覚の問題なので、どっちが正解とか、そういう話では全くないです。いやー、良いフレーズ。

「巡る世界の冷たさに」は並列チックな感じですかね。「青すぎる青空」と「巡る世界の冷たさ」が並列になっているということは、語り手にとってはこいつらが同じような類だということなんでしょうね。いまはまだどういうことなのかはっきりしませんけれど。

「立ちすくみ 凍えてしまわぬように」と続くということは、上に並べた二つが語り手にとっては然程肯定的なものではないらしいということを、否応なく感じさせられますね。「立ちすくみ」が「青空」、「凍えてしまわぬように」が「世界の冷たさ」を受けているのかな。あと、最初の三行が全部「に」で終わってるのが割と好きです。

「真っ白な感覚を やがて溶けゆく輝きを この胸に刻み付けて確かめたい」。めちゃくちゃいい。何なんだ、この文章。「真っ白な感覚」というのが何を言っているのかは正直分かりません。単に感動とかそういう何かなのかなと思わなくはないですし、もっとより内側に潜んだ熱みたいな、そういうやつなのかもしれません。でも「真っ白」という言葉には純粋な印象を僕は抱くので、前節の「巡る世界の冷たさ」とかと比べてみると、子供みたいな夢とか、何かそんな感じの話をしてるのかなと思ったりもします。どうなんでしょうね、分かりません。「やがて溶けゆく輝き」って何なんでしょうね。夢とか何だとか、一度でもそういう解釈に陥ってしまうとそうとしか思えなくなってくるんですけど、これは単に雪のことを言っているような気もします。というよりは「真っ白な感覚」を「やがて溶けゆく輝き」という言葉を通じて雪へ投影しているイメージ? これも並列といえば並列なんですけど。でも、それを「胸に刻み付けて確かめたい」と言っているので、雪はあくまで連想されるものの一つであって、一番は「真っ白な感覚」なんでしょうね(?)。

 ところで、ここに至るまで語り手のいる時間帯が確定していないんですよね。動画のサムネに引っ張られてましたけど、だから、もしかしたら朝の話なのかもしれません(わからん)。

 

・二番Aメロ(「ビルの窓に~もう先は見えてる」)

 一番とは少し違った風の情景描写をやってます。

「街」と書いていたので都会みたいなのをぼんやりと想像してましたけど(これは動画のサムネの影響もある)、「ビル」が出てきたのでやっぱり都会だったんだな、という感じ。でも「ミラーに映る裏路地」とも書かれているので、語り手はいま都会から少し離れた場所にいるのかな、という感じもします。「月」があるので、まあ多分夜なんでしょうね(昼にも見えるけど、きらめいてはいないと思う)。

「ぼやける目」というさりげない言葉が、またいいですよね。ただ単に景色を書き出すだけじゃなくて、何て言うんですか、その一枚絵にテクスチャを塗り重ねる感じといいますか、なんだかアニメーションを見ているような、どこまでも語り手の視点から言い表すということが徹底されているなあ、という感想を持ちました。

「街灯見下ろして」とあるので、多分一番で上った坂の向こうにあるのは、どうやら街らしいですね。ここの「見下ろして」もめちゃくちゃいい。細かいところで言葉を選ぶセンスが本当に段違いだなあと、この記事をまとめ始めて今更ながらに思っています。

「もう先は見えてる」。いいですよね、どこか示唆的で。

 

・二番Bメロ(「下り坂~夜の闇に消える」)

 全体的に一番Aメロとの対比になってますね。頭の「上り坂」と「下り坂」なんかは分かりやすい(これは余談ですけれど、BUMP OF CHICKENの『車輪の唄』でも全く同じ対応があります。他はあまりパッと思いつきませんけれど、でもそれは僕が知らないだけで、よく使われるペアなんでしょうね、多分)。「グッと~踏みしめ」と「フッと投げ出す」、「明日」と「昨日」、「見える」と「消える」。何なら「迫り来る」と「さらっていく」もちょっとしたあれですよね(これを指摘するのは些かやりすぎ感がありますけれど)。

「さらっていく風の止む前に」というのは、坂を下りきるよりも前に、ということを言っていると思うんですけど、こんな風にも書けるんだなあ、と思いました、いま。風って何なんですかね。

「散る残り香に昨日を探すも 夜の闇に消える」は、何なんでしょう……。この曲、Bメロが全体的に難易度高め。

 

・二番サビ(「遠ざかる星空に~忘れたくなる」)

 この部分、本当に何言ってるか分からないんですよね(理解力ゼロ)。前半三行はそのままかなあと思うんですが、後半の「繰り返す選択も やけに見慣れたこの道も あの星に見る夢に忘れたくなる」がもう何って感じで。

「繰り返す選択」と言っていますけれど、語り手が何かを選ぶことに迷っているのか、それともただ単に繰り返される選択肢のことを言っているのか、そこは分かりませんけど、歌詞の後半を読む限りでは前者なのかなあ。一番サビの「真っ白な感覚」と合わせて、そこら辺が絡んできてるのかなあ、という漠然とした予想だけがある感じです。

「やけに見慣れたこの道」というのは多分「いつもの道」の延長にある何かだろうと思うんですけど、それにしても、ここの「やけに」って何なんでしょうね、いや本当に。隠し味どころの話じゃないと思うんですけど。さっきも同じことを書いたような気がしますけれど、ここら辺の細かい言葉を添えるセンスがすごいなあ、と心底思います。

「あの星に見る夢に忘れたくなる」。めちゃくちゃ心躍るフレーズですね。「星」とか「夢」とか、僕が好きな言葉が入っているからというだけなんですけど、それ抜きにしても良い言い回しだなと思います。というか、一番サビの「この胸に刻み付けて確かめたい」と対比になっているのがいいですよね。僕の中では「真っ白な感覚」=「あの星に見る夢」で(勝手に)通っているので、一番サビの否定ではないとは思いますけれど。

 

・Cメロ(「最高速度で受ける風を~あの冬の夜」)

 ここ、めちゃくちゃいい。

「最高速度で受ける風を」の部分、というかこれまでの情景描写にCメロの展開が合わさって、ここの加速感が半端ない感があるんですよね。ああ最高速度だなあ、って感じの、そんなあれです。「風」って何なんでしょうね、本当に。

「冷めるほどに感じるの熱を」は撞着法っぽいですけど、まあ実際そういう感覚はあるよなあ、と読みながら思いました。冷たいものがあるから温かいものの在処が分かるんですよね。いいなあ、ここ。

「染み込んだ匂いを吐く息を」も含めて、文末全部が「を」なんですよね。日本語って韻を踏むとダサくなりがち(主観)ですけれど、こんな感じで文末だけ揃えるのはお洒落だなあと思いました。助詞ならではですよね、こう、後に続ける感じで上手く整えられているのは。

 ところで、後半三行があまりにも未知の概念すぎて、どういうことを言っているのかさっぱり解らないんですよね。これまでは分からない分からないと言いつつも、自分なりの解釈が通ってたりしたんですけど、ここだけは本当に解らなくて、どういうことなんだろうなあ、と今も考えていたり考えていなかったりします。

 

・ラスサビ(「消えかけの白線に~確かめたい」)

 最後の最後でド直球なんですよね、この曲。伏線回収って感じ。

「真っ白な感覚」とか「繰り返す選択」とか、もしかしたら「いつもの道」や「やけに見慣れた」の意味なんかも、これまでに出てきたよく分からない奴ら全部の答え合わせって感じがありますよね、ここの六行は、何となくですけれど。書き手の思惑通りの解釈ができている気はあまりしませんが、いやあ、良い歌だなあ。

 僕はめちゃくちゃにめんどくさいオタクなので、「消えかけの白線に~いつまでも抱きしめていられますように」を経た後の「青すぎる青空」が一番サビよりも若干肯定的になったように感じられて仕方がないんですよね。何一つとして変わっていない、全く同じメロディに全く同じフレーズなんですけどね。でも、そんな感じがしませんか?

 

 

【まとめ】

 こんなはずじゃなかった。(CV:藤原基夫)

 本当はもっとサクッとまとめて、あと二曲くらい一緒に書こうと思っていたんですが、思いのほか長くなってしまいました。どうして?

 コサメガ君、本当に良い歌詞書くんですよね。良いというよりは、単に自分好みというだけなのですけれど。いやあ、何を食べたらこうなるんだろうな、本当にな。