今週読んだ本についての話1

 

 暖房を23℃に設定すると快適に起床できるという事実が最近の個人研究により明らかとなったのですが、本日早朝、当研究に対するアンチテーゼとして『暖房が快適過ぎてベッドの上から動かなくなる問題』という論文が発表されたようです。自分の風向き調節が下手なのか、あるいは元からそういった設計なのか、我が下宿の暖房くんはベッド周辺を温めることばかりに躍起になっていて、肝心の作業スペース周辺は依然として南極ばりの冷気に包まれています。作業机と窓がべらぼうに近いということも寒さの一因にはあるのでしょうけれど、しかし、おかげで全く作業する気になれません。まあ、やるべきことはちゃんとやってるんですけどね。

 

 嘘です。来週提出のレポートが二つほど残っています。ガロア理論、何も分からん。

 

 

 今週は『風牙 / 門田充宏』を読みました。

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 工業規格によって定められた用紙の大きさを区別することが僕は未だにできないのですが、宛てにならないことに定評のある僕の勘が正しければB6サイズです。比較してみたところ物語シリーズと同じサイズでした(でかい)。そのうえで本書は350ページ近くあるので、それはもう読むのに結構な時間を使いました。と言っても八時間弱ほどのような気がしますけれど。

 

 とりあえず購入に至った経緯なんかを書いてみようと思います。毎週一冊、本を読もうぜ的な企画を絶賛進行中*1だというのは先週の記事で触れた通りなのですが、本書を購入したときにはそのような思惑は一切なくて、諸事情あって梅田に在る某書店内をうろうろしていた際に、不意に「いや、SF読みてえな」と思い立ったその勢いに押されるがまま購入しました。某書店はめちゃくちゃに広いので、偏にSFと言っても候補は他にも大量にあったのですが、その中でもこれを選んだのは表紙のイラストに釣られたからです。主人公の女性で、関西弁を話します。可愛い。イラストに釣られたというのは二割くらい冗談だとして、帯に書かれていた謳い文句が気に入ったから、というのがより大きな要因です。『あなたの記憶をお預かりします。』というやつです。これはちょっとした自分語りになってしまうのですけれど、一年半ほど前の自分はいわゆる感情だとか心だとか、もっと言えば自己という認識だとか、そういった非論理的な代物は実際問題この身体のどこにあるのだろうかということを考えるのに少しハマっていて、それで脳科学だとかの本をちょっとだけ読んで――まあ普通に投げ出したわけなんですが*2、だからというか何というか、根源的に興味のある話なんですよね。記憶とか何だとかって話題は。そういうわけで購入した次第です。

 

 内容についても話します。まだ一度しか読めていないので、どこか間違えたことを書くかもしれません。許して。

 本作はSFなので例に漏れず科学技術がめちゃくちゃに発展しているわけですが、この世界では、本来は個人の中にしか残らない代物である記憶を第三者にも観測できるように抽出し変換するという技術が存在しています。そして、それを執り行うのがインタープリタと呼ばれる記憶翻訳者たちであり、本作品の主人公である女性、珊瑚はその中でもエース級の技術を有しているとされています。誰でも彼でもインタープリタになれるのかといえばそういうわけでもなくて、彼らは先天的あるいは後天的に獲得した過剰共感能力というものを駆使して翻訳作業を行うので、それだけが必要不可欠です。まあもちろん訓練とかも要るんですけれど。「過剰」という言葉から想起される通り、この能力は本来社会を生きていく上では障害としか見做せない代物とされています。しかし、類稀なるその力を有効活用しようと試みたのが不二という男性であり、その不二が設立し、かつ珊瑚の職場でもあるのが九龍という会社です。作品名にも冠されている「風牙」という物語は、九龍内で起こったとある問題にいざ立ち向かおうとする場面から幕を開けます。

 

 書評って苦手なんですよね。以前書店を訪れた際に陳列されていたそれ系の本を興味本位で読んでみたのですけれど、「いや、もう、ただ嫌いなだけならわざわざ読むなよ」と言いたくなるくらいに他人の作品をめちゃくちゃに貶していて、こんなに稚拙な本でも出版できるんだなあ、と出版業界の寛容さにただただ驚嘆するばかりでした。著者をみたら東大出身の方でたしか五十歳前後でしたね、ウケる*3。理性的な批判こそは読者によって行われ、著者はそれを受け止めるべきだろうと思いますけれど、しかし、にちゃんねるの片隅に書き殴られている様が何よりも相応しいであろう凝り固まった思想の結晶を、理性的なそれなのだと勘違いして悦に浸っている人間だけはどうも苦手です。一生言葉に踊らされてろ、と思います。

 

 話が逸れた。本を読んだ感想についても少し話します。ブログへ公開するだけなら上に書いた分だけでも十分に事足りるのですけれど、知見というか、通じて得たものを書いておかないと自分のためにならないんですよね。すぐ忘れるんで。

 話の始まり方がめちゃくちゃに唐突でした。いやもう、マジで。「誰?」って人がポンポン出てきて、「何?」って概念がドカドカ出てきて、気が付けば中盤に差し掛かっていた、みたいな印象を受けました。普通の小説でもまあこれくらい普通にやってる事なんですけれど、SFは特殊設定が頻発するので未知の概念が多すぎて、自分の中でうまく想像しきれなかったというのがあります。単に自分がSFを読み慣れていないから、という原因も考えられます。というか多分それが正解です。とはいえ、二十ページを過ぎる頃には大まかな輪郭がぼんやりながらも掴めてきます。世界を構成している法則を言葉でなく具体的な状況描写で説明するってのは、なるほど、それもそれでアリだな、という気がしました。それに、風牙内での設定を最も効果的に伝えようと思えば、開幕はああいうような展開にするのがたしかに最適なのかもな、と思います。自分は物語の書き出しでめちゃくちゃに迷う人間なので、説明なんか後回しでとりあえず始めちゃおうぜ、という姿勢*4は自分にとって大事にすべきなのだろうなあ、という気持ちになりました。

 水と魚の話です。この比喩は伝わる人間にしか伝わらないので、割と本心に近い事が言えますね。暗号かよ。めちゃくちゃ水が少ないです。思い返してみれば、なんですけれど。でも、読んでる途中は全く気にならなかったんですよね。状況の描写や、システム周りの話、それと要所要所で挟まれる珊瑚の内心描写のおかげでしょうか。SFだとこういうことができていいですね。

 

 これくらいしか話せそうにないなあ、という気がします。あまり踏み込んだ話をするとネタバレになっちゃいますからね*5。本作は四つの短編*6からなる作品ですが、僕は特に三番目の話が好みでした。このブログだったり、あるいは普段からだったり、自分が言っていることと同じようなことを考えている人がいて、そしてそんな人の綴った物語がいま一冊の本として自分の手元にあるのだという事実に、僕にはとても嬉しい気持ちになります。第二話は特にその毛色が強かったですね。いやあ、よかった。いい買い物をした。本を買うときに僕は値段を見ることなしに会計へもっていくようにしているので、レジで2,000円越えの支払金額が表示されたときにはギャグマンガかよってくらい目を見開きましたが。

 

 このペースなら、文庫本サイズであれば一週間で二冊くらい読めそうな気がしますね。気がするだけなので、読めるとは言いませんけれど。

 残りの積読数は6です。

 

 

 

*1:参加者一名。

*2:生物学の基礎知識が無さすぎて終わった。物化勢はゴミ。

*3:こういうのを老害って言うんだよな、マジで。

*4:門田先生がそういう意識で書いたとは言っていない。

*5:ネタバレは悪という立場。

*6:全然短くない。