毒まむし

 

 

 いつの間にか沈んでいた二度寝の底から目覚め、慌てて家から飛び出した朝。

 目紛しく移り変わる外の風景を、頬杖をつきながら退屈に眺める昼下がり。

 両肩に重く伸し掛かった疲れを、溜め息交じりに吐き出そうとした夕暮れ。

 為すべきことをすべて終えて、一人静かに音の海に溺れる夜。

 

 

 ここまで書いたところで、さて自分がこの後にいったい何の話を書こうとしていたのかをすっかり忘れてしまった。いや、もう本当に、綺麗さっぱりと。全然思い出せねえ、わろた。こういうときにさ、人間って不連続だよなー、と思う。他人事のように思う。自分のことだけど。ああ、そういう話じゃなくて、まあこういう話でもないのだけれど、たとえばの話さ、よくいるじゃんか。「俺は正しい」だとか「あいつは間違っている」だとか「あいつは三年前と違うことを言っている」だとか「俺は昔からずっとこうだった」だとか、そういうことを平然と宣う人間が。でも、一度冷静に考えてみればそんな一切の主張は全くの無意味だって分かるだろ。だって、ありえない。昔から今まで何一つ変化していない現象なんて。あるいは、人間なんて。そんなものはどこにもありはしないんだわ。正しさなんてものは時と場所と時代と背景によって、お前は万華鏡(特製不良品仕様)かよ、ってくらいにくるくるぐるぐるゆらゆらふらふらと回り巡り移ろってゆくし、人間性だって勿論そうだ。たった十数分前の自分ですらいまじゃ他人みたいなもので、それが三年もあればそりゃ立場の一つや二つくらい変わるだろって話。因果律を除いたこの世の一切は不連続なんだよ。だから、誰なんだよお前はよ。何を書こうとしてたんだ、マジで。教えてくれ、頼む。

 ここまで書いたところで、さっきまで何を書こうとしていたのかということを思い出してしまった。いや、遅いわ。具体的には十二分ほど遅いわ。今更それを書くテンションには到底なれねえよ、どうすりゃいいんだこれ。えー、ってかもう全部バンブー・ランスのせいってことでいいですか。いいですよね。何もかも他人に押し付けて生きていくのはとても楽なんです。そうだよ。ゴミだよ、俺は。でも実際の話、本当の話、真面目な話、誰かと何かを笑いながらに話そうものなら、たったそれだけのことでも救われてしまうような単純な人間なんですよね、僕は。誰でもいいってわけじゃ当然ないですし、言っているほど単純な人間だとも本心では全く思っていないのですけれど、でも、いまはそういう気分なんです。だから書く気が失せたんだよな。違いねえ。

 

 「今の自分が立っている場所って何もかもが嘘みたいだよな」って話がしたかったんです、本当は。でも、上述の通り、そんなセンチでちっぽけで感傷的な自分は夜の向こう遥か彼方へとさながら霧のように尽く散ってしまったので、またの機会にでもゆっくりと書くことにします。とりあえず今日のところはおやすみなさい。ぐー。

 

(追伸) 厳格な抽選の末、記事タイトルは「毒まむし」に決定されました。ご応募くださった皆さま、本当にありがとうございました。