伏線回収

 

 これは悲鳴だ。零れそうで壊れそうでどうしようもなくなってしまった僕の心から漏れ出した悲鳴だ。だからどうか、そんなに簡単な単語で済ませないでくれ。そんなに単純な言葉で捉えないでくれ。そんなに幼稚な目線で同一視しないでくれ。これは僕の中に渦巻く想いであり、行く宛のない怒りであり、叫ばずにはいられなかった悲しみなんだ。それをたった数文字程度の言葉で片付けないでくれ。そこら中にありふれている雑音と一緒くたにしないでくれ。溢れ出した言葉は、紛れもなく僕自身の悲鳴なんだ。棄てられずに心の奥底へ沈殿していたドス黒い声なんだ。だから、しっかり聞いてくれ。耳を塞がないでくれ。でないと、本当に壊れてしまいそうだ。 

 こんなことをしたところで凡そ無意味だ。無価値だ。何の生産性もない。こうしている時間を睡眠時間に充てた方がよっぽど意味がある行いだと思う。それでもこうして文字を綴っているのは、僕がまだ期待しているからだ。嫌だ。面倒だ。もうこりごりだ。飽きた。疲れた。やめたくなった。そういった負の感情を殺しながら、いま僕はこうして文字を書いている。期待しているんだ。このループから解放されることを、僕はいまでも心のどこかで望んでいる。だから、それが無意味で無価値な行いだと感じていてもこうするしかない。そもそも、僕の心は悲鳴を上げた時点でその機能を停止してしまった。これ以上にできることなんて本当に何もない。ここに至るまでも僕はずっと叫んできた。声にならない声を、それでもずっと上げていた。その結末が今だというのなら、僕の声が届くことは決してないのだろう。だって、君はいつだって僕の呼びかけに気づいてすらいなかったんだろ? 要するに、君を振り向かせるという意味で、あれは最後の手段だった。僕だって自分を抉りながら叫んだんだ。そして、それと同時に最悪の手段でもあった。壊れた悲鳴なんて、誰の意識にも触れないに越したことはない。そんなこと、いくら頭の悪い僕だって分かっていた。ちゃんと分かっていたんだ。

 伏線めいたものなんて思い返せば腐るほどあったはずだ。すべての結果は、いくつもの要素といくつもの出来事といくつもの感情が複雑に絡み合った一本の糸を因として、その先に発生する。それは決して容易に簡略化できる代物じゃない。事を平面的に捉えすぎると、往々にして好ましくない結果を招く。例えば勘違い、誤解、すれ違い。だから、君は間違えたんだ。だから、僕は間違ったんだ。君には見えていないだけで、君には聞こえていないだけで、きちんとした段階が、流れが、声が其処にはあった。あったはずなんだ。結局、僕が書きたかったのはこれ一つだけだ。あの壊れた悲鳴の裏に乗せた感情は、ただそれ一つだけだったんだ。君が簡潔な言葉で済ませようとした悲鳴に僕が隠した想いは、ただそれ一つだけなんだ。それが一体何だったのか。僕が君にしてほしいのは、それを解き明かすことだけだ。

 さぁ、世界をもう一度巻き戻そうか。どうせこれまでと同じなんだから、君の手元にはやり直すための機械がきっとあるはずだ。だから僕はわざわざこんな手紙を書いたんだ。この手紙は、言うなれば、選択を間違えた君へ送る再挑戦権だ。君が今度こそ正しい選択をできるように、数々の伏線を正確に見抜けるように、僕から君へ宛てた精一杯のヒントだ。これだけ僕の想いを正直に話したんだから、今度こそちゃんと僕のことを救って読者の皆様を満足させてくれよ。それが主人公の仕事ってもんだろ。

 僕はそれまでずっと待ってるからさ。

 期待してるぜ。

 

 

 

※この物語はノンフィクションです